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教養・歴史書評

軍事クーデター後のミャンマー(ビルマ)情勢、事情通の著者が描写=評者・高橋克秀

『ビルマ 危機の本質』 評者・高橋克秀

著者 タンミンウー(歴史家、ジャーナリスト) 訳者 中里京子 河出書房新社 3520円

軍事政権下の弾圧と混迷 事情通が克明に描写

 ミャンマーの軍事クーデターから1年。民主化の夢はまたも打ち砕かれた。軍事政権による弾圧は激化し、市民に多数の死傷者が出ている。先進国による経済制裁の影響は貧困層に重くのしかかり、人道危機が発生している。軍事法廷は今月、民主化の象徴であるアウンサンスーチー氏を禁錮4年に処した。ミャンマーは国家破綻の瀬戸際まで来ている。

 本書は国の成り立ちから近現代史までを扱う。圧巻は政権内部の権力闘争と大国間の利権争い、新興市場に群がる外国資本、どこまでも守旧的な官僚、市場経済の荒海に投げ出された市民の困窮に関するこの10年の描写である。

 ミャンマーの民主化は欧米諸国が思い描いていた教科書的な筋書きとはまったく異なる展開をした。民政移管後も軍は影響力維持に腐心し、民主的な憲法の制定には強く抵抗した。民主の女神として過剰なまでの期待を寄せられたアウンサンスーチー氏は軍部と民主派勢力のバランスに苦心しながら国家のアイデンティティーを保とうとした。しかし、ミャンマーの内情に疎い欧米各国は、こうした姿勢を軍部に融和的であるとして失望を隠さなくなった。とくにロヒンギャ難民問題に対してアウンサンスーチー氏が国軍を擁護するような姿勢を見せたことから、国際的評価は急落していた。

 こうした情勢の中で2020年11月に総選挙が行われた。事前にはNLD(国民民主連盟)の苦戦が予想されたが、結果は圧勝であった。海外での低い評価とは裏腹に国民はアウンサンスーチー氏とNLDを圧倒的に支持した。民主化の歩みは遅いものの、軍部による恐怖政治と比べればましだと国民は判断した。NLDの圧勝で近い将来の憲法改正が視野に入った。実現すれば、国軍に自動的に付与されてきた国会の議席が廃止される。国軍は存亡の危機と判断し、議会が招集される21年2月1日を狙って蜂起した。

 短い民主化の期間にミャンマーにはアジア最後のフロンティアとして投資が流入しバブルが発生していた。しかし、好景気の裏では、深刻な政治危機が進行していたのだ。ブームに便乗して進出した企業は終わりの見えない冬の時代と向きあうことになる。

 著者のタンミンウー氏は、国連事務総長を務めたウ・タント氏の孫にあたる。米国と英国で教育を受け、国連などで活動してきた。軍部と民主派の双方に人脈があり、ミャンマーの複雑な政治と社会を英語で発信している。

(高橋克秀・国学院大学教授)


 Thant Myint-U 1966年、米ニューヨーク生まれ。祖父はアジア初の国連事務総長を務めたウ・タント氏。ミャンマーについて執筆するほか、「ヤンゴン・ヘリテージ財団」を創設、ヤンゴンの歴史的建造物の保護に努める。

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