教養・歴史書評

日本刀の高品質を裏付ける製鉄の歴史が今、明らかに=今谷明

謎だった日本の製鉄史 遺跡発掘で見えた全貌=今谷明

 以前、本欄で鑑賞用の見地から刀剣の本(本間順治著『日本刀』(岩波新書限定復刊)を取り上げたことがあった(2020年2月18日号)。あれは戦前出版の新書を復刊したもので、戦後は刀剣関係の学術書が少なかったことを物語る。その刀剣鍛造の背後にあるのが製鉄の問題で、文献が少なかったから、研究者の数はさらに乏しかった。

 半面、室町時代は日本で刀剣が目立って量産された時期で、勘合船(かんごうせん)(日明貿易)で搭載・輸出された日本刀は数十万本にも及ぶというのが貿易史家から示されていた記録であった。これが事実とすれば、当時の日本はおそらく世界に冠たる武器輸出国だったことになるが、その背後に潜む製鉄技術については、文献史学ではほとんど明らかにされなかった。

 しかし近年、中世考古学が進展し、各地の製鉄遺跡が発掘・究明され製鉄史の全貌がようやくわかってきた。また室町期に備後の尾道、瀬戸田などの港から、大量の製鉄素材が積み出され、畿内(おそらく京都)へ搬送されていたことも示されている(『兵庫北関入船納帳(ひょうごきたせきいりふねのうちょう)』)。

 松井和幸著『鉄の日本史 邪馬台国から八幡製鐵所開所まで』(筑摩選書、1870円)は、中世考古学出身の著者が、各地の製鉄遺跡を取材して克明に著述された名著である。

 前近代の鉄の産地は、中国地方と東北の北部に限られる。刀剣の製作には良質の砂鉄が必要で、岩石を砕いて水に流し、「鉄穴(かんな)流し」という比重選鉱法で砂鉄を取り出す手法が早くから発達した。砂鉄を鉧(けら)という塊状にする鋼炉は、高温を要し、風を送る鞴(ふいご)にも改良が施され、天秤で支える足踏み式の送風装置が発明された。「たたらを踏む」という語はこの鞴から来ている。著者はこの発明を江戸前期としているが、評者は『職人尽絵(しょくにんづくしえ)』などの描かれ方から、室町期にさかのぼると推定している。

 ともかく日本刀の切れ味と頑丈さは抜群で、中国人も「倭刀(わとう)甚だ利あり。中国人多くこれをひさぐ」と脱帽していた。今日の日本の技術の衰退状況を見るにつけ、心中複雑になるが、今一度、我々の先祖の努力の跡を見直すことも必要ではないか。

(今谷明・国際日本文化研究センター名誉教授)


 この欄は日本史、西洋史、現代史、中国史の各分野で掲載します。

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