教養・歴史書評

世界が注目。ニュージーランド首相の人間的魅力に迫る一冊=評者・将基面貴巳

『ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力』 評者・将基面貴巳

「女性的」で「誠実」なリーダー 新時代の政治家のあり方示す

著者 マデリン・チャップマン(作家) 訳者 西田佳子 集英社 2200円

 ジャシンダ・アーダーンが登場するまで、ニュージーランド首相が世界のメディアから頻繁に注目されることはなかった。彼女が脚光を浴びる理由には、産休をとった初めての首相となったことや、国連総会に「ファーストベビー」を連れて参加して話題になったこともあろう。しかし、決定的だったのは、2019年に南島クライストチャーチで白人至上主義者がモスクを襲撃したテロ事件に見事な対応を取ったことである。被害者に寄り添う姿勢を取りつつ、瞬く間に銃規制法の改正を実現したことで、秀でた危機管理能力を示したのだ。さらに、20年には、コロナウイルス危機に際して果断なロックダウンを実行し、感染の封じ込めに成功を収めたことで、世界のメディアからそのリーダーシップが称賛された。

 しかし、37歳という若さで首相に就任したこの女性は、どのようにして指導者としての力量を体得したのだろうか。その点、学生時代から労働党のメンバーとして活動してきたというだけでなく、国際社会主義青年同盟での活躍と人脈づくりが奏功し、その総代表にまで選ばれたという経歴には目を見張らされる。ちなみに、アーダーンのライバルだった国民党の女性政治家ニッキー・ケイも保守主義政党の世界的ネットワークである国際青年民主同盟の副議長を務めたという。「地盤、看板、鞄(かばん)」が政界進出の決め手という土着的な日本の政治風土とは対照的に、この若い国のリーダーたちは、青年期から世界を舞台に実務経験を積んでいるのだ。

 とはいえ、アーダーン首相本人はリーダーになりたがるタイプではなく、むしろ人々によって指導的地位に押し上げられてきたそうであるから、そのリーダーシップの本質は、カリスマ的な人間的魅力にあるといえそうである。政治家として常に狡猾(こうかつ)な駆け引きを行わなければならないとはいえ「誠実な人間」でありたいと願い、政治に「優しさ」が必要だと主張し、かつそうした政策を実践する。しかも、スーパーウーマンを気取るのではなく、あくまでも謙虚で地に足が着いている。

 ニュージーランド初の女性宰相となったヘレン・クラークの場合、男性優位の続く社会で男性よりも男性的に、時には冷酷に振る舞うことではじめて成功を収めた。そんなクラーク元首相との比較を通じて、著者はアーダーン首相に「女性的」な新しいリーダー像を見いだす。新時代の政治家のあり方を考える上で格好の一冊である。

(将基面貴巳、ニュージーランド・オタゴ大学教授)


 Madeleine Chapman ニュージーランドの作家。サモア、中国、ツバル系。2018年に「ヤング・ビジネス・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」、19年には「ユーモア・オピニオン・ライター・オブ・ザ・イヤー」に選出されている。

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