教養・歴史書評

日本社会の現状をデータから分析。日本経済新聞好評企画が1冊に=評者・土居丈朗

『Reading Japanese Politics in Data データで読む日本政治』 評者・土居丈朗 編者 日本経済新聞社 政治・外交グループ 日経BP 2640円

確かな統計と数字で分析する日本社会の現状と課題

 昨年の衆院選は与党の圧勝に終わった。その裏側で、何が起きていたか。今日の日本政治をデータで迫った書である。各分野のトピックスについて、データをビジュアルに示しながら4ページの読み切り式で記されており、とても読みやすい。

 日本の選挙では、「地盤・看板・カバン」があると勝てる、と以前から言われている。昨年の衆院選でも、やはりその強さがものを言った。その様を、世襲議員や当選回数が多い議員の勝率が高いというデータで裏付けている。

 ただ、時代を経て変化を示すデータもあって興味深い。候補者が投じた有権者1人当たりの選挙運動費用が減っているという。小選挙区が導入された1996年は1票当たり「50〜60円」をかけた候補者の勝率が5割を超えていたが、2017年は「20〜30円」へと半分程度の水準にまで減っているのである。

 大勢の運動員を雇って大規模な選挙戦を展開するのをやめたり、ネット選挙が解禁されてSNSを活用したり、野党候補が弱く与党候補が当選しやすくなっていたりすることなどが背景にあるようだ。

 本書は衆院選以外に、今日の政治を語る上で欠かせないテーマにも焦点を当てている。データからは、世代間で政策支持が異なる構図があぶり出される。確かに、学生運動が活発だった時代に若者だった団塊世代では、左派政党の支持が高く、左派政党の支持が特定の世代に偏っていることは以前から知られていた。

 他方、今日の40歳未満では、自民党の支持率が高いという。その理由として、本書では民主党政権への拒否感を挙げる。これが、世代固有の現象なのか、政治の現状を反映した現象なのか、今後どう推移するだろうか。

 昨今の情勢を反映してか、外交・安全保障にも多くの紙幅を割いているところは特徴的だ。この分野をデータで語るのは容易ではないが、中国海警船の動きや、サイバー攻撃、自衛隊員の数などに注目しながら、安全保障論議を解説している。

 日本政治の特徴をつかむ上で、国際比較の視点は重要である。本書では、世界の民主主義の動向にも目を配っている。政府に対する国民の信頼度は、国際的な世論調査を行った11カ国の中で、日本は最も低かった。日本政府が史上まれに見るほど大量に発行する日本国債の金利は目下、世界有数の低さだが、これが国民からの信頼に裏付けられていないところに心もとないものがある。日本政治の真価が問われよう。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


 日本経済新聞社 政治・外交グループが編集。執筆者は、吉野直也、四方弘志、佐藤理、永井央紀、黒沼晋、坂口幸裕、亀真奈文、宮坂正太郎、甲原潤之介、根本涼、溝呂木拓也。

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