ウクライナ人の老科学者が日本育ちの孫に語る戦争の真実④(終)成功は頭の中のイメージから、戦争を終わらせるには、終わった後のことを考える
日本育ちでウクライナのキエフから戦禍を伝えるボグダン・パルホメンコさんが、科学者の祖父ウラジミールさんから戦争の真実を聞く。最終回。
ウラジミールさん:
もうひとつだけシェアさせてください。
やる前に目的を決めなくちゃいけない、ということです。たとえば、ライオンが餌を食べたいときのことを想像してみましょう。狩りをするとき、「食べたい」という目的がまずある。「食べたい」「狩りをしなくては」「獲物はどこだ」、という順番で動いていくことになる。ライオンは、狩りのタイミングから逆算して、狩りの1時間前には何をして、2時間前には何をして、というふうに行動しているそうです。人間も、まずは目的を決めるのが大切。
それから、情報を収集して、分析して、最終的には、サービスや行動として実現されていく。
すべては頭のなかで思うことからはじまる、ということを理解してください。頭の中にイメージをつくることが大切。成功したいなら、成功したいことを考える必要がある。ですから、いまの戦争を終わらせたいのなら、いまのことだけを考えるのではなく、それが終わった後のことを考える必要があります。
核兵器は危ない火遊び。いま、つらいが、廃棄は正しい判断だった
ボグダンさん:
ウクライナが核を放棄したことについてどう思う?
ウラジミールさん:
核兵器は危ない火遊びです。ウクライナは、世界第3の核兵器大国だった。放棄したのは正しい判断だったと思う。私たちはブダペスト覚書(1994年)と共に核を放棄した。ブダペスト覚書には、ロシア、イギリス、アメリカが署名している。
これらの国が、いざという時にはウクライナを守ってくれるという約束だった。その協定に署名したロシアが、守るべきウクライナのことを攻めてしまった。ですから、いま、とてもつらい状況にある。マリウポリの街なんて、焼け野原になって、建物がほとんど残っていないような状態になっている。
みんな、死ぬ覚悟で戦っている、支援してくれる世界の人々に感謝
ロシアがずっと攻撃するから、赤十字も物資を運べない。マリウポリでは、家が焼かれたから、地下や防空壕に潜って生活をしている子供たちがいるんですが、水やごはんがないから、病気になって死んだりしている。
核を放棄したときは、こんなこと想像してもいなかった。でも、それをいまあれこれ言ってもしょうがない。いまのウクライナをサポートしてくれている人々や国に感謝します。
戦争がはじまる前は、キエフの中央にある独立広場のメインストリートで、軍隊が平和パレードをしているのがおなじみの光景だった。けれど、いまはまったく違う景色になってしまった。同じ兵隊でも、シチュエーションが180度違う。激戦が続いているし、死ぬ覚悟で戦っている。
近い将来のウクライナの勝利を確信、ウクライナは信用と信頼を勝ち取る
でも、ウクライナが勝利して戦争を終わらせるときが近づいているのを私は感じています。この戦争が終わったとき、ウクライナは信用とか信頼を勝ち取ることができているだろうと私は思っています。
ですから、すべてを総合的に評価すると、たとえこんな状況になっているとしても、ウクライナが核兵器を放棄したことは正しい判断だったと思う。
私たちはルールを守ったのにブタペスト覚書にサインした他の国はそれを守っていない。これは正しくない。これは、世界の組織が機能していないということだと思う。
ウクライナの戦争は、世界でこれから起こることの始まりに過ぎない
いま、ウクライナは前線で戦っている。ウクライナでのことははじまりにすぎなくて、これからウクライナ以外のいろんなところでいろんなことが起こって、世界のシステムは変わっていくでしょう。
だから、ウクライナ以外の国の人たちも、安穏としていないほうがいい。みんなのところでもこんなことが起こりはじめる。そうなる原因がいまのこの世界にはあるんだから。いま、ウクライナの空は、戦闘機が飛べる状況。
これをストップさせないでいる国たちに、感謝を述べたい──もちろん皮肉だけどね──。
でも私たちは耐え切る。それだけの強さを持っているから、負けない。おそらく、誰かが実際にウクライナみたいなポジションになってみないと世界は変わらない。だから、いま、ウクライナがその役割を担っている。
ウクライナは恐怖を乗り越えてロシアに「NO」と言った
ウクライナはみんなが恐れていたロシアに対して、大きな恐怖心をのりこえて「NO」と言った。突きつけられたロシアはいま悪いことをしている。ロシアは、人口がウクライナの4倍、面積も10倍以上、それくらい大きい国。その攻撃をウクライナがひとりで受け止めている。
でも、ウクライナは勝利するでしょう。なぜなら、すべてをかけて、みんなで助け合って戦っているから。軍人もそうでない人も、みんながそれぞれができることをして戦っているから。
たとえば、お医者さんは、一回病院に行くと2、3日病院から帰ってきません。人々は長蛇の列を待ってまで、献血をしている。周りを見て困っている人を助けない家族なんていない。
そういったことがぜんぶ統合されて、ひとつのエネルギー、愛情になっている。これは、すごくいいことです。
ゼレンスキー大統領は毎日、演説で、戦い、死んでいったヒーローたちを紹介
ほぼ毎日、大統領はみんなの前に出て国民のために演説をしてくれている。演説の最後に、毎日、ヒーローの名前、ヒーローのいる町の名前をいう。その人たちが、すべてをかけてウクライナを守っているから。
そこで挙げられるヒーローたちは、多くの場合、もう生存していない人々です。
たとえば今日は13人のヒーローの名前が呼ばれた。みんな軍人で、半分はもう死んでしまった人です。このヒーローに挙げられた人々にも家族がいる。この家族のために、ウクライナからリスペクトとサポートがあるべきだし、きっと絶対あるだろうと確信している。
世界中から平和を取り戻すために志願兵が集まっている
また、世界各国からの志願兵が集まっている。お金ではなく、平和をとりもどすという目的のためだけに来てくれている。
私は本当に感謝している。すべての人に感謝します。すべての行動に感謝しています。
メディアはこの戦争をビジネスではなく、世界を変えるために報道して欲しい
あとひとつだけ言わせてください。
こうやってみんなが見てくれている。メディアの人たちもこれを見ていると思う。私たちのことを、あなたたちのビジネスとしてみるのではなく、世界を変えるための行動に移すことを考えてほしい。
お願いします。
みんな、ありがとう。
優しさ、幸福が、みなさんに訪れますように。
(終わり)