教養・歴史書評

金融危機はなぜいつも繰り返される? 10年間9事例で徹底検証=評者・上川孝夫

『教養としての金融危機』 評者・上川孝夫

著者 宮崎成人(三井住友信託銀行顧問) 講談社現代新書 968円

危機はなぜ繰り返されるのか 100年間の9事例で検証

 新型コロナウイルス禍からロシアのウクライナ軍事侵攻へと、世界は大変動に見舞われている。欧米や日本は対ロシア制裁に踏み切り、ロシア主要銀行の国際決済網からの排除やロシア中央銀行の資産凍結などを実施した。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、コロナ危機を受けて続けてきたゼロ金利政策を解除し、利上げに転じたが、急激なドル高が進むなど、波乱含みである。

 この激動の時に出版された本書は、長年金融行政に携わってきた著者が、第一次大戦後の100年間を対象に、九つの代表的な金融危機を論じたものだ。九つの危機とは、世界大恐慌に始まり、第二次大戦後のブレトンウッズ体制や変動相場制の下でのドル危機、バブルの崩壊、途上国債務危機、アジア通貨危機、ヘッジファンドの危機、そして21世紀のリーマン・ショック、ユーロ危機へと続く一連の危機である。

 この100年間の危機で問われたのは、経常収支の黒字・赤字、為替相場のあり方、対外債務問題、緊縮政策など国内の調整、銀行の破綻や公的支援などである。これらは装いを変えつつも、今日まで繰り返し登場してきたテーマだと指摘する。

 なぜ、金融危機は繰り返されるのか。新しい金融技術の登場や新規の財政支出の要請、新たな経済理論の普及によって、思わぬ形で信認の低下やサドンストップ(資金流入の突然の停止)が生じる可能性がある。資金の流れが変化すると、政府や企業、金融機関等の行動の前提が変わるので、その変化に順応する過程で、危機は起こりうる。また、表面的には問題なく動いているシステムでも、少しずつゆがみが蓄積していくメカニズムにも注目している。

 著者は次の10番目の危機も必ず起きると指摘する。「ウィズコロナ」の時期には、これまでの緩和的な政策が巻き戻され、ドルへの資金回帰や資産価格の下落など、何らかの動揺が生じうる。実際、本書刊行後、コロナ禍にウクライナ危機に伴う石油や穀物の物価上昇が重なって、実体経済の不確実性が強まる一方、米利上げは今後も予定される。

 歴史をひもとくと、確かに金融危機を「教養」として学ばなければならないほど、危機の事例に事欠かない。金融史研究で有名な故キンドルバーガー・マサチューセッツ工科大学教授は、かつて次のように警告したことがある。「世界は過去の経験から学んでいるようには思えない。今後も学ばない可能性がある」。本書の説明は分かりやすく、教養を培うのにふさわしい書物である。

(上川孝夫・横浜国立大学名誉教授)


 宮崎成人(みやざき・まさと) 1962年生まれ。東京大学法学部卒業後、英オックスフォード大学にて国際関係論修士号(M.Phil)取得。大蔵省(現財務省)勤務等を経て2016年より東京大学大学院(総合文化研究科)客員教授。

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