同僚の会話に「聞き耳」を立てる…バーチャルオフィスツール「oVice」がこだわる“超”リアルなコミュニケーション
ジョン・セーヒョン oVice代表取締役CEO 仮想オフィスに「偶発的会話」を
「偶発的な会話」を重視したバーチャルオフィスツールで世界シェアナンバーワンを目指す。
(聞き手=市川明代・編集部)
オンライン上でアバター(分身)を自由に動かして、現実世界に限りなく近いコミュニケーションを取ることができる二次元のバーチャルオフィスツール「oVice(オヴィス)」を開発・提供しています。(挑戦者2022)
競合製品との決定的な違いは、アバター同士の距離や顔の向きによって、声の聞こえ方が変わるところにあります。現実空間さながらに、アバター同士を近づけると声が大きくなり、遠ざけると小さくなる。向き合うと大きく、背を向けると小さくなるのです。
在宅勤務やテレワークで爆発的に普及したビデオ通話システムのZoomは、目的のために会議を開き、目的が達成されたら会議を閉じる、という業務の効率性を重視したツールです。アバターを使ったほとんどのバーチャルオフィスツールは、いわばバーチャルオフィス上にたくさんあるZoomの部屋を「見える化」したもの。話の輪の外側にいる人が、後から輪に加わる場合は、そこで何が話し合われているのか全く聞こえない状態から、「意を決して」入らなければなりません。そのため、偶発的な出会いや会話が生まれにくいという欠点があります。
oViceは、話の輪から少し離れたところで聞き耳を立て、入っても良さそうなら加わるけれど、入る必要がないと分かったら、通りすがりのふりをして立ち去る、ということも可能です。「効率」より自然なコミュニケーションを重視しています。
会議室を作ったり、音楽を流したり、空間を複数つなげて「バーチャルビル」を作ることも可能です。当社のオフィスもoVice上にあり、石川県に住んでいる私をはじめ、東京など全国に散らばる社員が不自由なく一緒に仕事をしています。
現在、ユーザーは約5万人。料金は10人までの利用を推奨する「ベーシック」プランで月額5500円など、さまざまなプランを設けています。海外では、韓国や米国で利用者が増えています。目標は「世界シェアナンバーワン」です。
「ドラえもんを生んだ国」へ
韓国で生まれ育ち、オーストラリアの中学・高校に進学しました。大学進学先に選んだのは、子どものころから大好きだった「ドラえもん」を生み出した日本。ロボット工学を学ぼうと東京大学を受験しましたが、見事失敗し、仕方なく韓国で貿易仲介会社を起業しました。日本との取引が多かったので、東日本大震災でダメージを受けて廃業。来日して京都工芸繊維大学に入学しました。
起業を幾度か経験して、oViceの開発に着手したのは2020年2月。別のビジネスでチュニジア出張中に新型コロナウイルスの感染拡大で足止めを食らい、「会社に行きたいのに行けない」状況に置かれたのがきっかけです。自分で使うためにoViceのプロトタイプを作ったところ、とても使い勝手が良かったので、事業化することにしたのです。
現在はオフィスにおける「出社組」と「在宅組」をつなぐワークスタイルの実現を目指し、実証実験を進めているところです。
企業概要
事業内容:バーチャルオフィス、オンラインイベント等で使えるバーチャル空間の開発・提供
本社所在地:石川県七尾市
設立:2020年2月
資本金:1億円(資本準備金を除く)
従業員数:約100人
■人物略歴
丁世蛍(Jung Sae-Hyung)
1991年韓国生まれの韓国籍。中学・高校時代のオーストラリア留学を経て、日本の大学を受験し失敗、その翌日に韓国で貿易仲介事業を興す。再度日本の大学を受験して進学し、在学中にIT事業会社を設立。2017年には上場企業への会社売却を経験する。IT技術のコンサルタントなどを経て、2020年にNIMARU TECHNOLOGY(現在のoVice)を設立。30歳。