教養・歴史書評

日本経済が「不振」の原因を分析、「不信」払拭に課題設定=評者・平山賢一

『日本経済 成長志向の誤謬』 評者・平山賢一

著者 神津多可思(公益社団法人日本証券アナリスト協会専務理事) 日経BP 2420円

「不振感」が「不信感」を生む

効率性だけでない「解」が必要

 本書は、過去30年にわたる日本経済を「不振感」という一言で表し、その経緯と今後の展望について模索したものである。我が国は、積極的に金融・財政政策といったマクロ安定化政策を実施してきたが、グローバルな位置づけは残念ながら年々低下している。うまくいかない忸怩(じくじ)たる思いを、「振るわない」という言葉で表現するのは、言い得て妙である。この閉塞感漂う状況が、各種政策に対する「不信感」をも醸成しているとの指摘は耳が痛い。我々は、常に実績よりも高い成長率を実現しようとする「成長志向の誤謬(ごびゅう)」を断ち切る勇気を持つべきかもしれない。

 その一環として、著者の古巣である日本銀行に対する建設的な批判は傾聴に値する。実質金利をマイナスにしたからといって、「実質リターンがマイナスの投資プロジェクトを実行することに熱心な経営者がたくさんいるとはあまり思えない」との指摘は、机上のシミュレーションだけからは生まれない実務感覚のたまものであろう。

 また、日銀によるETF(上場投資信託)の大量購入についても、「日本経済の体温を測る重要な温度計の1つに狂いが生じている」可能性を指摘しつつ、保有ETFの新勘定への分離について提案している。資産買い入れ政策の出口戦略についても、政策当局者は不振感の要因となった短期的ネガティブ面(市場変動など)の先延ばしを続けてばかりはいられないからである。

 ところで、我々は新型コロナウイルス禍だけでなく、ウクライナ危機といったグローバル社会の不安定性を、今後も受け入れ続けることになりそうだ。その時、グローバル企業に求められる「効率性と頑健性のバランス」という著者の課題設定は、マクロ経済すべてに適用可能ではないか。情報技術革命が進展する中で、無駄を排した効率性を追求してきただけに、現代社会は緩衝材ともいうべき「あそび」を失っていたのかもしれない。最適な一つの解に集約するのではなく、多様な選択肢を複数取り入れることで、ショックに対する頑健性を高める必要が、あらゆる分野で求められているのだろう。

 さらに著者は、以上のようなマクロ安定化政策だけでなく、「もっとミクロに踏み込む必要がある」と説く。経済変動の平準化の機能だけではなく、財政政策を未来志向型のワイズ・スペンディング(政策効果の高い支出)に格上げしていくためには、構造転換に即した産業政策のビジョンが同時に求められるからであり、これも重要な指摘である。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)


 神津多可思(こうづ・たかし) 東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。金融調節課長、金融機構局審議役などを歴任。その後、リコー経済社会研究所所長を経て現職。著書に『「デフレ論」の誤謬』がある。

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