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教養・歴史 書評

実験学習の減少から単位の変化まで=評者・池内 了

『こんなに変わった理科教科書』 評者・池内了

著者 左巻健男・『理科の探検(RikaTan)』編集長 ちくま新書 902円

科学の進歩はどう反映されたか

70年余の教育の変遷で検証

 おそらくほとんどの人は、「理科教科書がこんなに変わった」と言われても、そもそも自分が習ったのがどんな教科書であったかなんて覚えていないから、ピンとこないかもしれない。しかし、理科は物理・化学・生物・地学に関わる分野、つまり現代科学の基礎となっており、科学の日進月歩ぶりがどのように教育に反映しているか知っておく必要があるのではないかと思う。

 本書は、この70年余りの間に、主として小学・中学の理科教科書の内容がどう変わってきたかを俯瞰(ふかん)的にまとめたものである。その方法は、10年ごとに変わる教育課程に応じた教科書の変遷を、1949年開始の「生活単元学習の時代」から、2011年開始の「理数教育充実の時代」まで(いずれも開始年は小学校のもので中学校はその1年後)に分け、それぞれの10年を「系統学習時代」とか「ゆとり教育の時代」というふうに特徴づけて区分している。そして、その区分に応じて、理科教育に割く時間配分や内容がどう変化してきたかが整理されていてわかりよい。

 本書を整理すると、理科の教科書の変化は次の5点に集約されるだろう。(1)理科教育の重点目標の時代区分に応じた変化。放射能・放射線なら、まずこれを重点事項として取り上げ、やがて簡略化し、福島の原発事故で復活、といったように変遷してきたこと、(2)実験学習が大きく減少し、アルコールランプやマッチの使用がなくなって安全なブラックボックス化された代用品に変わってきたこと、(3)社会環境の変化を受けて、伝染病・寄生虫の記述が減り、性教育や生態系の説明が増えたこと、(4)新発見の知見を受けて、遺伝をメンデルの法則からDNA主体へ、地球の変動を褶曲(しゅうきょく)・隆起からプレートテクトニクスへというふうに基礎概念が大きく変化したこと、(5)国際的動向に応じて単位系(㎝・g・秒からm・㎏・秒へ)や単位の呼び方(力のダインからニュートンへ、気圧のミリバールからパスカルへ)、遺伝用語(優性・劣性から顕性・潜性へ)、火山の定義(休火山・死火山がなくなり活火山のみとなった)など、私たちが慣れ親しんだ体系が変わっていること──。

 理科教育は科学を支える基本であり、直接最新科学について教えるわけではないが、やはり世間で使われる科学用語についての解説のようなものが欲しい。科学に関してわからないことが出てきたら、昔使った理科の教科書を見直してみたら書いてあった、ということを経験するのもいいのではないだろうか。

(池内了・総合研究大学院大学名誉教授)


 左巻健男(さまき・たけお) 1949年生まれ。千葉大学教育学部卒。理科教育と科学コミュニケーションが専門。同志社女子大学、法政大学などの教授を歴任。著書に『中学生にもわかる化学史』などがある。

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