CO₂排出量開示ツールを起業1年弱で1300社以上に提供
渡慶次道隆 ゼロボード代表
企業に対する気候関連財務情報開示の動きが強まる中、クラウド上で、温暖化ガス排出量を可視化するサービスが注目を集めている。
(聞き手=斎藤信世・編集部)>>>これまでの「挑戦者2022」はこちら
企業が出す温暖化ガスを可視化
GHG(温暖化ガス)排出量算定・可視化サービス「zeroboard」(ゼロボード)を開発・展開しています。ゼロボードは国際基準「GHGプロトコル」というルールに基づいてCO₂(二酸化炭素)排出量を開示する法人向けのクラウドサービスです。
昨今、企業は急激に脱炭素に向けた取り組みに迫られています。4月の東京証券取引所の再編で、プライム市場上場企業は、気候関連財務情報開示を一層求められるようになりました。この動きは来年以降、全上場企業に広がっていくとみられています。
GHGプロトコルは、事業者自らの排出量を示す「スコープ1」、他社から供給されたエネルギー使用による間接排出「スコープ2」、取引先などサプライチェーン全体が排出する「スコープ3」に区分されています。ただ、スコープ3まで開示できているのは上場企業でも200社程度です。スコープ3まで把握するのはそれくらい難しいです。
ゼロボードは、サプライチェーン全体、また商品ごとのCO₂排出量を算定でき、加えて視認性の高いダッシュボード(一覧表示画面)でCO₂排出量の削減管理やコスト効果のシミュレーションなどができます。
料金体系は3種類あり、一番安価なプランは年間9万6000円です。他に、プライム市場レベルの開示を目指す企業向けで顧客担当サポートがつくプランは、年間144万円から提供しています。これまでに1300社以上に導入した実績があります。
今年3月には、美容室と提携し、施術メニューごとに、排出されるCO₂を可視化したアプリの提供も開始し、BtoC(消費者向け)のサービスも行っています。
建築熱環境の研究が生きる
もともと建築家になろうと、大学では建築学科を志望しました。建築家になるには建築学科の中でもデザイン系の研究室にいかないといけないのですが、当時は建築家の安藤忠雄氏が教授をしていた時代で、人気があったんですよね。
僕の場合、中学からラグビーを始め、大学でも続けていたので、毎日部活がありました。それで、デザイン系の研究室に行くのは難しいと思い、建築家になる夢は諦めました。結局大学では、建築熱環境の研究室を選び、どのようなビルを作れば環境負荷を低く抑え、過ごしやすい建物を作れるのか、といった研究に打ち込みました。
卒業後は、米金融機関のJPモルガンに入社しましたが、三井物産に転職、エネルギー×ICT(情報通信技術)事業を担当しました。ダイキンエアテクノとの合弁で、空調をサブスクリプション(定額課金)で売るサービスを提供する「エアアズアサービス」という企業を一から立ち上げたりしました。人生、後々、何がつながってくるかは意外に分からないものですね。大学時代、絶対に建築熱環境を学びたいと思っていたわけではないけれど、そこでサステナビリティ(持続性)を学び、金融や商社での経験も今に生きています。
企業概要
事業内容:GHG(温暖化ガス)排出量算定・可視化サービス「zeroboard」の開発・展開
本社所在地:東京都港区
設立:2021年8月
資本金:非公開
従業員数:53人
■人物略歴
とけいじ・みちたか
1982年神奈川県生まれ。麻布中学・高校を経て、2006年に東京大学工学部を卒業。新卒でJPモルガンに入社後、09年に三井物産に転職。18年にスタートアップ、A.L.Iテクノロジーズでエネルギーソリューション事業を立ち上げ、「zeroboard」の開発に着手。21年8月に株式会社ゼロボードを設立。40歳。