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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

将来はEV部品や超小型医療機器にも=岡田直樹・フジクラ社長 

Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都江東区の本社で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都江東区の本社で

高密度光ケーブルで海外市場開拓

岡田直樹 フジクラ社長

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── 2022年3月期の最終(当期)利益は391億円と過去最高となりました。

岡田 20年度から構造改革に取り組んだ結果です。19年度に最終損失が過去最悪の385億円となり、経営刷新や固定費の削減、資産売却などを集中的に進めたことで、この2年で成長軌道に戻すことができました。今期は主力の情報通信事業を中心に伸び、営業利益は過去最高の420億円を見込んでいます。

── 主力は情報通信事業の柱である光ファイバー関連です。新型コロナウイルス禍の影響は。

岡田 情報通信に関してはコロナ禍が追い風になった面があります。在宅勤務が浸透し、回線情報量が増えたことで各国が光ファイバー投資を積極的に進めるようになりました。特に欧米の投資は非常に拡大し、最近はデータセンターで大量に光ファイバーが使われるようになっています。

 光ファイバーは溶かしたガラスを繊維状に細く引き伸ばした「光(情報)の伝送路」で、情報伝達には欠かせないものです。当社は製造から電柱や地下管への敷設・接続まで手がけており、ネットワークを形成する部材から工事まで全てを供給できる、数少ないメーカーだといえます。

── 光ファイバーの戦略商品「SWR/WTC」が売りです。どのような特徴があるものですか。

岡田 「SWR」は「スパイダー・ウェブ・リボン」、「WTC」は「ラッピング・チューブ・ケーブル」の略です。従来は光ファイバー同士を全長にわたって接着していましたが、SWRは所々を接着し、広げると網状になっています。これを集約したものがWTCで、どの方向にも柔軟に曲げることができ、より高密度に光ケーブルを細くできるため、狭いスペースでもより多くのファイバーを入れられます。フジクラ発の技術で国内外から高い評価を受けています。

── 社長が自ら開発に携わったそうですね。

岡田 14年に「次世代光ケーブル事業推進室」を設け、開発にのめり込みました。当時は光ファイバーが国内で張り巡らされ、需要や価格は下落傾向で一気に赤字化していました。卓上に並べたファイバーを1本1本、接着剤で所々を接着し、展望が開けた時には「これで世界が変わる」と思いました。

── 海外戦略では欧米を重視していますが、その理由は。

岡田 日本は世界の中でも先進的に光ファイバー敷設を進めたため、国内普及率は99%に上りますが、欧米先進国は35%程度にとどまっています。社会のデジタル化に向けて、各国政府が光ファイバー投資を盛んに行っています。

 新興国には管路が敷設されていない地域も多く、「SWR/WTC」の良さを認めてもらいにくい一方、欧米では地下の既存管路が他のケーブルで隙間(すきま)が埋められている地域が多く、細くて高密度なこの商品の価値が生きると考えています。管路を新たに作り直す必要がなくなるので、コストや環境負荷の低減にもつながります。

── 光ファイバー製造に欠かせないヘリウムの供給が不足しています。影響は出ていますか。

岡田 影響は多少あります。ヘリウムは消費量が増加する一方で、生産国が限られており、コロナ禍で輸送が停滞し、ファイバーの生産量やコストに影響を及ぼしています。そのため、安定調達だけでなく、代替ガスに転換するための検討も早めているところです。

── 情報通信事業のほか、エレクトロニクスや自動車事業なども手がけていますね。

岡田 電子機器用の部品・コネクターやフレキシブルプリント基板などがエレクトロニクス事業の主軸です。医療機器でも酸素濃度を測る酸素センサーなどを手掛け、ニッチながらも当社の技術が生きています。自動車分野では、動力や情報を伝達するワイヤハーネスという電線を製造しています。

── 構造改革は一定のめどが付いたようですが、将来の展望はどうでしょう。

岡田 今後も筋肉質な企業体を目指し、事業ポートフォリオの変革は継続していきます。現在、自動車向けの製品はワイヤハーネスだけですが、今後は100年に1度といわれる自動車の技術革新の下、電気自動車(EV)のバッテリー周辺の電子部品やコネクターに商機がありますし、将来的には車内の情報伝達も光通信に変わる可能性があるので注視しています。新たな技術で価値を創造していきます。

── 将来的には、どのような領域に力を入れていきますか。

岡田 検討中の23年から3年間の中期経営計画では、情報通信部門をはじめ、エレクトロニクス部門の電子部品とコネクターがターゲット領域になります。さらに先も見据え、研究開発部門として核磁気共鳴(NMR)装置や核融合炉への利用が期待される高温超電導線のほか、光ファイバーを使った超小型かつ高精度の医療機器の開発にも力を入れていきます。

(構成=梅田啓祐・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 入社以来、千葉県佐倉市の工場で情報通信の研究開発一筋でした。当時も「開発で勝たねば」「技術で認めてもらわねば」と開発にのめり込んでいました。

Q 「好きな本」は

A 『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建著)です。新事業に取り組む際も顧客にいかに興味を持ってもらうかが重要だと、改めて気づかされました

Q 休日の過ごし方

A ゴルフの打ちっぱなしとウオーキングです。九十九里浜の海辺を歩く時もあります。


事業内容:光ファイバーケーブル、電子部品、自動車電装品の製造など

本社所在地:東京都江東区

設立:1910年3月

資本金:530億円

従業員数:5万2434人(2022年3月末、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:6703億5000万円

 営業利益:382億8800万円


 ■人物略歴

岡田直樹(おかだ・なおき)

 1964年埼玉県出身。県立春日部高校卒、千葉大学工学部卒業。86年藤倉電線(現フジクラ)入社。2008年光ケーブル開発部長、14年次世代光ケーブル事業推進室長などを経て、20年に常務執行役員に就任。22年4月から現職。58歳。

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