SiCパワー半導体の世界シェア、3年で3割に=松本功・ローム社長
新素材パワー半導体で世界一狙う
松本功 ローム社長
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)
── 昨年度(2022年3月期)は売上高が過去最高で、営業利益も前期比85%増と好調でした。
松本 昨年度は新型コロナウイルス感染拡大からの回復もあり、さまざまな半導体市場が回復して特に自動車関連で顕著でした。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す流れが世界的に強まって、自動車メーカーが走行時にCO2を出さないEV(電気自動車)の投入を増やしました。それが旺盛な半導体需要につながりました。
── 昨年発表した中期経営計画の目標を5月に上方修正しました。26年3月期の売上高を4700億円から6000億円以上に、営業利益率を17%以上から20%以上に引き上げています。
松本 昨年5月に公表したのは、市場はそれほど伸びないという前提で策定しました。実際には昨年夏から市況が急激に変化し、当社収益にも大きく影響して上方修正しました。ただ、市況には小さな波があります。直近では中国・上海での都市封鎖によって顧客に影響が出て、当社の第1四半期(22年4~6月)業績にも波及するかもしれませんが、全体的には需給は逼迫(ひっぱく)した状態が続くだろうし、半導体市場は活況が続くとみています。
── ロームが得意な半導体製品にはどういう種類があり、どのような用途があるのですか。
松本 半導体と聞いて思い浮かぶのは、CPU(中央演算処理装置)やメモリーでしょう。当社はそれらとは別の、パワー半導体(電力の制御や変換)とアナログ半導体(音や光など変化する情報を感知する電気信号の処理・制御)に、従来、注力してきました。
1990年代は当社の顧客である国内セット(最終製品)メーカーが非常に強い時代でした。テレビ、ビデオ、携帯電話などの市場が広がり、そのための特注のIC(集積回路)を供給して当社も成長しました。ところが、00年ごろから日本のセットメーカーが衰退し、韓国や中国メーカーが台頭し方向転換が必要になりました。従来、手掛けてきたパワーやアナログ半導体を中心に、成長が見込まれていた車載用途や産業機器向けに注力しました。いずれも省エネルギーや製品の小型化に寄与するものが多いのが特徴です。
── 車載向けが好調です。今後注力するのはEVでしょうか。
松本 ガソリン車に比べるとEVでは半導体を使う量が2.5倍多いと当社では見積もっています。したがってEV化が進むと、商機は増えると期待しています。中国と欧州でEV市場が伸びていますが、最近では日本の自動車メーカーも力を入れ始めており、チャンスだと考えています。
新素材SiCで世界狙う
── パワー半導体の中でも、新世代基板の炭化ケイ素(SiC)を用いた製品に注力しています。従来のシリコン基板の製品に比べて、どのような優位性があるのかを教えてください。
松本 SiCはより高温で動作可能です。また、バッテリーからの直流の電気を交流に変換してモーターを駆動する際に起きる電力損失を低減することができます。シリコンを使ったパワー半導体に比べると効率が約10%改善し、ガソリン車の燃費に当たる「電費」が良くなります。電費が同等なら、電池を小型化することもできるし、EVのコスト削減にもつながります。今後は電力インフラ向けなど用途が拡大する見込みです。
── 難易度の高い技術力が求められるわけですね。
松本 SiCはかなり特殊な基板です。モノづくりがアナログ的で経験の蓄積が求められるので、量産は非常に難しいのです。シリコン基板に比べて生産コストが2~3倍高いことが課題ですが、現状の直径150ミリの基板サイズが今後は200ミリに拡大します。そうすると、1チップ当たりのコスト削減が可能になります。
── SiCパワー半導体の世界シェアや競合状況は。
松本 現在は2割弱のシェアで、当社は4位といわれています(編集注:首位はスイスのSTマイクロエレクトロニクス)。これを25年度に30%に引き上げて世界首位を目指します。福岡県筑後市でSiCパワー半導体を製造する新棟を建てました。いま製造装置を入れており、12月に本格稼働します。
── 音楽家の育成にも注力しています。
松本 創業者の佐藤研一郎(20年1月死去)の思いが詰まっています。大学時代にピアニストになる夢を持ちながら「トップになれない」として断念し、最後はピアニストを諦めてロームを起業しました。その後、音楽家を育成したいと私財を投じて、財団法人「ロームミュージックファンデーション」を作りました。財団が支援した中では、昨年のショパン国際ピアノコンクールで2位になった反田恭平さんなど世界で活躍する音楽家が出ています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 2011年発生のタイの洪水です。工場が浸水して1カ月余り操業が停止しました。ボートで発電機を入れて2階を稼働させて「水上工場」と呼ばれました。
Q 「好きな本」は
A 吉田松陰と高杉晋作に焦点を当てた『世に棲む日日』(司馬遼太郎著)です。大学生の時に読んで感銘を受けて、その後、歴史の本を読むようになりました。
Q 休日の過ごし方
A 犬の散歩や社内外の人とのゴルフなど、できるだけ体を動かすようにしています。
事業内容:半導体製品の開発・製造・販売
本社所在地:京都市右京区
設立:1958年9月
資本金:869億円
従業員数:2万3401人(2022年3月末、連結)
業績(22年3月期)
売上高:4521億円
営業利益:714億7900万円
■人物略歴
松本功(まつもと・いさお)
1961年福岡市出身。私立西南学院高校卒、九州工業大学卒業。85年ローム入社、2013年取締役LSI生産本部長、19年9月取締役常務執行役員などを経て、20年5月から現職。61歳。