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週刊エコノミスト Online2022年の経営者

技術力とM&A生かし9カ国でシェア1位=若月雄一郎・日本ペイントホールディングス共同社長

Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 中村琢磨:東京都中央区の本社で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 中村琢磨:東京都中央区の本社で

成長する世界市場に塗料売り込む

若月雄一郎 日本ペイントホールディングス共同社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── グローバル展開する国内首位の塗料総合メーカーです。コロナ禍でも業績は好調ですね。

若月 売り上げは伸びており、2022年度の通期業績予想も増収増益の見込みです。塗料にはあらゆるものをコーティングして守り、彩りや機能を与える役割があります。例えば自動車でいえば車体に美しい色つやを表現し、紫外線劣化やさびから守ります。住宅の内装なら、豊富な色で自分らしい空間を実現し、抗ウイルス・抗菌や防カビ対策。ビルや橋では、デザイン性を保ちながら耐火や防汚、防さびなどの保護をします。(2022年の経営者)

 このように塗料は生活に根ざすもので、底堅い実需があります。特に自宅の壁に自分で塗料を塗るDIY文化のある豪州や米国では、巣ごもり需要で伸びました。基本的に塗料需要は伸びていくので、23年までの中期経営計画で掲げている営業利益1400億円(21年12月期は876億円)は十分視野に入っています。

── 足元で円安や原材料高騰が進んでいます。影響は。

若月 当社の売り上げ収益約1兆円のうち、日本での売り上げは約1650億円です。為替の影響はグローバルで考えれば損にはなっていません。

 一方、原材料高騰は、基本はマイナスに働きます。そこで、例えば工場の生産ラインで各部品に塗装する場合、水性でも早く乾きやすくしたり、塗装回数を減らして乾燥させる工程を少なくしたりして、生産ライン全体の二酸化炭素(CO2)排出量を抑えられるよう、技術面で貢献できる商品の開発を進めています。

── 環境対応の商品開発に力を入れていますね。

若月 当社は創業141年の歴史があり、技術を大事にしています。特に、環境問題へはいち早く目を向けてきました。代表格が祖業の一つの船底塗料です。溶剤は必ず海水に溶け出します。

 そこで海洋汚染を防ぐべく1990年、世界で初めて有害物質の有機スズ化合物を含まない「スズフリー」の船底防汚塗料を開発しました。21年1月には塗料の溶出をこれまでの製品より50%抑え、船底面の水の抵抗を低減させて船舶の燃料消費量を約8%減らせる商品を発売し、12月末までの国内外での採用実績は100隻を超えています。特に欧州では、船主や造船会社の環境意識が高まっており、引き合いは非常に強いです。

9カ国で市場シェア1位

── M&A(企業の合併・買収)を効果的に行っています。

若月 例えば17年に米ダン・エドワーズ、19年に豪デュラックスグループなどを相次ぎ買収してグローバル化を進めてきました。

── 特に21年1月にシンガポール投資会社ウットラムグループからの出資が、それまでの39・6%から58・7%に引き上げられました。現在、グローバル展開はさらに加速しています。狙いの市場は。

若月 その際には、ウットラムから、塗料のアジア合弁事業とインドネシア事業を買収しました。22年前半にも、中・東欧で広い販路を握るスロベニアのユブ社を買収完了予定です。こうして、現在は中国やトルコ、オーストラリアなど9カ国で市場シェア1位となりました。どの市場でも、現地のブランド企業でトップを狙えるところを買い、伸ばす戦略です。傘下に入ってもらえば、その原材料調達網や販売網を活用できます。

── 経営面で株主価値最大化(MSV=Maximization of Shareholders Value)を掲げています。

若月 企業経営において、ステークホルダーに対する責任の遂行は当然です。約束通りの価格で(顧客に)商品を提供し、従業員に約束した給料を払い、定められた税金を政府に納めるなどです。ただ、これらの責任は有限です。逆に株主には、利益が出なければ配当はなく、責任の上限もない。無限です。ステークホルダーへの責務を果たした上で、残った価値を最大化して株主に還元するのがMSVです。「企業価値の向上」では曖昧です。各ステークホルダーへの責務を明確にし、取締役会ではMSVだけを判断基準にする。「この決断は責務を充足した上で、残ったものを最大化できる判断か?」を追求すると、確実な経営判断ができると考えています。

── 共同社長体制も独特です。

若月 MSV実現には「EPS(1株当たり当期利益)」と「PER(株価収益率)」が重要な指標になります。もう1人の社長、ウィー・シューキム氏は10年以上、アジア合弁事業の成長基盤を作ってきました。EPSの最大化には彼の知見が必要です。一方、PERは資本市場からの期待値であり、M&Aなどで、私の経験を生かします。ウィー氏とは毎日メールやチャットで頻繁に意見交換する傍ら、週に2、3日は2時間ほど直接打ち合わせをします。経営判断は2人でしています。共同社長体制で、判断が速くできるのが強みです。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A がむしゃらに働き、とにかくM&Aを自分のプロフェッションにしたいと考えていた時期でした。

Q 「好きな本」は

A 城山三郎氏の『黄金の日日』です。彼の本は割と最後は悲しい終わり方をしますが、感銘を受けます。

Q 休日の過ごし方

A ミュージカルが好きで、妻と一緒によく見に行きます。


事業内容:塗料・塗料周辺分野における製品の開発・製造・販売を行う事業会社を通じた製品提供

本社所在地:東京都中央区

設立:1881年3月

資本金:6714億3200万円

従業員数:3万247人(2021年12月末現在、連結)

業績(21年12月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:9982億円

 営業利益:876億円


 ■人物略歴

若月雄一郎(わかつき・ゆういちろう)

 1966年生まれ。私立武蔵高校、東京大学法学部卒。89年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2000年メリルリンチ日本証券(現BofA証券)入社、16年取締役。19年日本ペイントHDに入社し21年4月、ウィー・シューキム氏と代表執行役共同社長に就任、22年3月から現職。55歳。

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