EV、風力発電で需要爆発「銅」事業を原料調達から加工まで 小野直樹・三菱マテリアル社長インタビュー
脱炭素素材「銅」事業を増強 小野直樹 三菱マテリアル社長
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)
── 非鉄大手と捉えられていますが、どのような事業を行っていますか。
小野 当社は銅関連を中心に、原料調達から加工までを手掛けています。「銅鉱山投資」に始まり、銅鉱石やE─スクラップ(都市鉱山)から地金を作る「製錬」、地金を板や薄板コイル状の銅条にする「銅加工」です。銅加工品は自動車の端子などに使われます。また、当社のグループ会社で製造する半導体向けリードフレームにも使われています。(2022年の経営者)
── 銅の世界需要をどう予測しますか。
小野 銅は、電気を伝える素材です。今後、脱炭素化の一環として電気自動車(EV)や風力発電が普及し、インフラの電化が進む中、中長期的に需要は底堅いとみています。当社は一連の事業のうち、「加工」に当たる銅板と銅条で国内シェアトップ。加工部門の拠点は堺市や福島県の会津若松市にあります。加工部門の設備については、2020~26年度に300億円の投資をして生産能力を3割増強します。
── 銅鉱山の投資先は?
小野 中南米を中心に投資しており、21年にはチリのマントベルデ銅鉱山の権益30%を取得しました。銅鉱山開発は巨額の投資が必要で、世界的にも事業者の寡占が進んだ産業です。当社が大きな銅鉱山に投資するのは現実的に厳しいのですが、それでも銅鉱石は必要。そこで、不純物が少ない銅鉱石の、中規模クラスの鉱山を投資対象にしています。
── なぜそのような鉱山投資戦略を取っているのですか。
小野 銅製錬との兼ね合いからです。当社の銅製錬では銅鉱石に加えて、「E─スクラップ」、つまりパソコンやスマートフォンなどの使用済み電子機器由来の金属も溶かしています。E─スクラップ由来の金属は鉛やスズなどの不純物がどうしても入ってきます。だから、銅鉱石はなるべく純度の高いものを確保したいのです。
── E─スクラップ、つまり、都市鉱山も手掛けているのですね。
小野 社会のグリーン化が進み銅需要が伸びる一方、銅鉱石は希少資源なので、リサイクル原料の重要性は一層高まっていきます。当社は国内外でE─スクラップ事業を手掛けており、オランダなどに集荷拠点を持ちます。
── 製錬では独自の「三菱連続製銅法」を持っています。特徴は?
小野 構造上、設備全体をコンパクト化でき、環境に優しく、省エネにもつながる製法です。また、E─スクラップ由来の原料の製錬にも適しています。当社では直島製錬所(香川県)を主力とし、共同運営の小名浜(福島県)、インドネシアでも製錬を行っています。
── 銅事業以外の事業はどんなものがありますか。
小野 金属素材の知見を生かし、切削工具を製造しています。自動車のエンジンや航空機の部品を削る「超硬工具」では国内シェアトップです。セメント事業もありますが、4月に宇部興産(4月にUBEに社名変更)と折半出資で設立した新会社へ移行します。
── なぜ新会社に?
小野 セメントの国内需要はピークだった1990年度から半減しています。90年代にセメント業界は合従連衡が進み、当社も宇部興産と98年に販売・物流を統合して折半出資で事業を行ってきました。ただ、製造部門は両社別個に続けてきました。国内市場は縮小しているとはいえ、国土強靱(きょうじん)化やインフラ老朽化もあり、今後も産業はなくなりません。ならば、今、より効率的な事業運営にするべきだとして方針を決定しました。
── 三菱マテリアルは「金の地金」でもおなじみです。
小野 銅鉱石やE─スクラップ由来原料の中に一定量の金が含まれており、製錬で出てきたものを地金にしています。その地金を裏付けとした金融商品を取り扱っており、当社が持つ唯一のBtoC(対消費者)ビジネスです。ただ、当社の利益の中で大きな割合ではありません。
品質不正の教訓
── 2017年にグループで品質管理を巡るデータ改ざんが発覚しました。
小野 私も対策本部長として調査に当たり、大きく三つの問題があると総括しました。一つ目はコミュニケーションが量・質ともに不足していたこと、二つ目はガバナンスの欠如、三つ目は資源配分適正化の問題、つまり人も金も資源配分が不十分だったことです。
このうち、コミュニケーションについては、対話の機会も増やしていますが、最近は悪い情報こそ先に上げることを徹底しています。ただ、報告を受ける側に問題がある場合が多いです。せっかく勇気を持って悪いことを報告したのに「どう対策していくつもりか」と聞き返されては、次から発言できなくなる。まずは悪い報告を上げてくれたことに感謝するよう社内で周知しています。
(構成=種市房子・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 品質管理問題に対応した時です。市場や顧客から失った信頼を取り戻せるのかという不安の中での日々でした。ただ、危機に直面した社員が「このままではいけない」と膨大な作業をこなしたことには、潜在能力があることを思い知らされました。
Q 「好きな本」は
A 須賀敦子さんの全集に挑戦しています。
Q 休日の過ごし方
A ジョギングのほか、気が向いた時には料理をします。家族に好評だったのがキムチチャーハンです。
事業内容:非鉄金属製造
本社所在地:東京都千代田区
設立:1950年4月
資本金:1194億円
従業員数:2万7162人(2021年3月末、連結)
業績(21年3月期、連結)
売上高:1兆4851億円
営業利益:265億円
■人物略歴
小野直樹(おの・なおき)
1957年愛知県生まれ。大阪府立天王寺高校、京都大学工学部卒業。79年三菱鉱業セメント(現三菱マテリアル)入社。主にセメント事業を手掛け、2012年三菱マテリアル執行役員。常務取締役、取締役副社長執行役員を経て18年から現職。