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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

ドコモ完全子会社化で「光の半導体」開発へ=NTT・澤田社長

Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

遠隔勤務を基本に、需要創出も狙う 澤田純 NTT社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── リモートワーク(遠隔勤務)を基本として、転勤や単身赴任をなくす方針を昨年9月に発表しました。実施状況はいかがですか。

澤田 リモートの対象は国内の17万~18万人のうちホワイトカラー(事務職)です。コールセンター業務も自宅でできる態勢を整えつつあります。顧客にもリモートによる需要を創出してもらえるよう率先して取り組むことで、好循環を作り出したいと考えています。(2022年の経営者)

── 課題はありますか。

澤田 大きく3点あります。まずは環境です。従来は職場のパソコンは持ち出し禁止とする企業が多かったと思います。「ゼロトラスト」と呼ばれる、“性悪説”に基づいたセキュリティー対策を実施することで、パソコンを紛失しても(遠隔操作で)データを消すなどの多重防護がかけられるようになり、端末を持ち帰ることができるようになりました。この仕組みをグループ会社のNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が導入しており、持ち株会社(NTT)でも採用したのです。

 二つ目は(労務などの)制度です。これもNTTコムが改革をリードしており、グループ内に広げます。定期券ではなく出社分だけの交通費支給や、在宅勤務では(電気代や通信費など)必要経費を支払います。三つ目はマインドセット(思考態度)です。従来の決まりごとを自発的に変えることができるかも鍵を握ります。

── コロナ後もリモート勤務を続けるか、出社に戻るかは企業によって対応が分かれそうです。

澤田 結論からいえば在宅と出社との混成になるでしょう。当社ではコロナ後もリモート比率70%を目標にしていますが、現実は50~60%かもしれません。とはいえ、日本はデジタル化を進める必要があります。自社で成功例の「ひな型」を作り、それをICT(情報通信技術)のビジネスにつなげていく狙いもあります。

── 2020年12月にNTTドコモを完全子会社化し、ドコモはNTTコムとソフトウエアのNTTコムウェアを22年1月に子会社化するなど、グループ再編を積極的に進めています。

澤田 ドコモは携帯事業者の収益力では3番手で、強化が必要です。それがNTTを強くすることにもなります。ドコモは無線通信だけで動こうとする考えが強いのですが、法人営業やソフトにも注力する必要があります。ドコモが関連企業を買収する方法もあったでしょうが、一番早いのはNTTグループの中にある能力を組み合わせることでした。

「光」による次世代通信

── 完全子会社化の経済効果として23年に1000億円、25年に2000億円を見込んでいます。

澤田 想定通りに進めていますが、通信業界は競争が活発です。昨年春に実施した携帯料金の値下げの影響が約2700億円あり、当社の21年度業績にも響いています。マイナス分を埋め合わせるために、ドコモの法人営業メンバー全員を今年7月にNTTコムに移す準備を進めています。

 完全子会社化したもう一つの狙いが研究開発の強化です。当社は「IOWN(アイオン)」という次世代ネットワークの構想を進めていますが、これをドコモと一緒に取り組む必要がありました。

── 6G(第6世代移動体通信規格)にも関わるものですか。

澤田 6Gは無線通信方式で、固定通信を含むIOWNのほうが対象領域は広いです。過去数十年を振り返ると、IBM、マイクロソフトから現在のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に至るまで、OS(基本ソフト)は米国の巨大企業が世界標準を押さえていました。対抗するにはゲームチェンジを実現する技術が必要です。NTTはずっと「光電融合」(電子データ処理と光伝送機能を接合させる技術)から「光の半導体」(光信号で動く半導体)に至る技術研究を続けており、IOWNはこれらを土台に、従来になく高速かつ低消費電力のサービスを実現するものです。

── IOWN導入はいつですか。

澤田 光電融合は、25年の大阪万博で使用するシステムとして準備を進めており、実際のインフラへの導入は26年ごろの想定です。光半導体は30年以降でしょう。

── 利用者にはどのようなメリットがありますか。

澤田 実世界から収集したデータを「双子」のようにサイバー空間で再現するサービスです。当社では「デジタル・ツイン・コンピューティング」と呼んでいます。光電融合では、従来のデジタル画像の伝送で生じていた30ミリ~40ミリ秒(0・03~0・04秒)程度の遅延時間を数ミリ秒に低減可能です。複数地点の音源をつないだ遠隔のコンサートやeスポーツなどで効果を上げるでしょう。IOWNは電気の消費量も劇的に減らすことが可能です。当社は、40年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする計画ですが、削減量の45%はIOWNによって実現する考えです。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 1997年に米国に単身で赴任し、スタートアップ企業への技術支援に当たりました。当初は英語ができず、生きていくこと自体がピンチでした。

Q 「好きな本」は

A 梅棹忠夫さんの『文明の生態史観』です。衝撃を受けました。

Q 休日の過ごし方

A 読書や散歩、近所のスパに行くことですね。あと、スーパーでおいしい食品を買うことが好きです。


事業内容:総合通信事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1985年4月

資本金:9380億円

従業員数:32万4650人(2021年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:11兆9439億円

 営業利益:1兆6713億円


 ■人物略歴

澤田純(さわだ・じゅん)

 1955年大阪府出身。京都府立桂高校、京都大学工学部卒業。78年日本電信電話公社(現NTT)入社。2008年NTTコミュニケーションズ取締役、同社副社長、14年6月NTT副社長を経て、18年8月から現職。66歳。

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