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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

ホテル資産を売却、運営特化で耐久性と持続性を高める=後藤高志・西武ホールディングス社長

Interviewer:秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都豊島区の本社で
Interviewer:秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都豊島区の本社で

ホテル運営特化で財務体質強化 後藤高志 西武ホールディングス社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── コロナ禍の鉄道業界は非常に厳しいと思います。足元の状況はどうですか。

後藤 鉄道について、輸送人員は現状でコロナ前の約75%です。在宅勤務やオンライン授業の普及などで、特に定期券収入の戻りが遅く、苦戦しています。定期外収入については、昨年秋から年末にかけて感染者が減少したことからコロナ前の約85%まで戻りました。(2022年の経営者)

── ホテルも打撃を受けました。

後藤 コロナ前まではホテルの稼働率は平均で80%を超えていましたが、2年前の2020年4~9月は数%に落ち込みました。都市部に比べると軽井沢(長野県)や箱根(神奈川県)などのリゾートの方が相対的に回復は早いです。

 不動産についても、商業施設はテナントの退店などがあり苦戦しています。しかし、変動性が低いオフィスやレジデンス(住居)は堅調で、他の事業に比べると相対的に耐久力があります。

── コロナ後を見据え、バランスシート上の資産(アセット)を圧縮して財務負担を軽くする「アセットライト」をテーマに経営改革を進めています。その狙いは。

後藤 キーワードは「レジリエンス(耐久性)」と「サステナビリティー(継続性)」です。今後も同様のパンデミック(世界的大流行)が起きることを想定して、いろいろなリスクに対してグループ全体の耐久力を高めていく。そのために財務体質を強化し、自己資本も充実させます。サステナビリティーの観点では、高輪・品川(東京都)や所沢西口(埼玉県)など、大型の再開発プロジェクトが目白押しです。再開発をしっかり進め持続的に成長させていきます。さらに、国内外84カ所のホテル拠点を今後10年間で250カ所に増やします。4月からプリンスホテルはホテル運営会社「西武・プリンスホテルズワールドワイド」となり、運営特化に移行しました。所有物件のうち31物件は資産をシンガポール政府系投資ファンドのGICに売却し、残りはグループの不動産会社が管理します。

── 運営特化の勝算は。

後藤 これまでプリンスホテルは、オペレーター(ホテル運営者)とアセットオーナー(資産保有者)の両方を兼ね備えていました。しかし、コロナ禍により固定資産を持つリスクが顕在化したため、切り離します。それによって、プリンスホテルの総支配人は、今後はホテル運営に専念できます。専門性が高まり、ホテル運営の手法を磨くことが強みになります。

 アセットオーナーを兼ねていると、まず土地を買収して、そこにホテルを建ててから運営するので、展開に時間がかかっていました。今後はアセットオーナーからホテル運営のオファーを受ける形式になるので、スピード感を持って展開できます。

── 250施設にどう増やしていきますか。

後藤 例えば、宿泊特化型ブランド「プリンススマートイン」の展開が挙げられます。現在、恵比寿(東京都)、熱海(静岡県)、京都2施設がありますが、今後も新幹線停車駅や県庁所在地、観光地などに増やしていく考えです。コロナ禍で観光業界の事業者が苦しい状況にある中で、西武グループへの期待は大きいので、積極的に展開していきたいです。

魅力的な観光スポット

── 鉄道事業はどのように立て直していきますか。

後藤 まず定期券収入については、沿線の少子高齢化や人口減少局面に入っていることを前提に考えなければいけません。では沿線価値をどうやって高めていくか。例えば、所沢はこれまでベッドタウンでしたが、今後は暮らす、働く、学ぶ、遊ぶといった生活のいろいろな要素が充足できる「リビングタウン」へ転化させます。

── 定期外収入はどうでしょう。

後藤 コロナ前を超えたいですね。西武鉄道沿線はそれに足り得る魅力的な観光スポットがあります。例えば、山手線から一番近い国立公園である秩父(埼玉県)があり、池袋から特急ラビューを使えば77分で着きます。

── 近年、観光スポットも相次いで開業しています。

後藤 飯能(埼玉県)には「ムーミン」の世界観を再現したテーマパーク「ムーミンバレーパーク」がありますし、来年前半には「としまえん」(東京都)の跡地に「ハリー・ポッター」のスタジオができます。所沢エリアでは、21年に3カ年の改修計画を終えたプロ野球・埼玉西武ライオンズの本拠地「ベルーナドーム」があります。また、「西武園ゆうえんち」が昨年5月に「昭和レトロ」をテーマにリニューアルし、好評を得ています。KADOKAWAが運営するポップカルチャー発信拠点「ところざわサクラタウン」もあります。これだけの魅力的な観光スポットが沿線にある強みを、西武鉄道の経営に反映させていきます。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 第一勧業銀行芝支店の営業課長でした。バブルの絶頂期でしたが、その波には乗らず、信念を持って「資金需要があるところに投資する」というスタンスを貫きました。結果的に担当した取引先が1社も倒産しなかったことは誇りです。

Q 「好きな本」は

A 佐々淳行さんの『危機管理のノウハウ』です。

Q 休日の過ごし方

A 家にいる時にはサンルームのような部屋で音楽を聴きながら読書をしています。


事業内容:都市交通・沿線事業、ホテル・レジャー事業、不動産事業など

本社所在地:東京都豊島区

設立:2006年2月

資本金:500億円

従業員数:2万2844人(21年3月現在、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:3370億6100万円

 営業損失:515億8700万円


 ■人物略歴

後藤高志(ごとう・たかし)

 1949年生まれ。東京都出身。私立成蹊高校(東京都)卒業、東京大学経済学部卒業後、72年第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ常務執行役員、みずほコーポレート銀行副頭取などを経て、2005年西武鉄道社長に就任し、06年から現職。73歳。

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