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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

損失の“穴埋め”から“予防”の保険へ=原典之・MS&ADホールディングス社長

Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区のECOM駿河台で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区のECOM駿河台で

リスク解決のコンサル機能を強化

原典之 MS&ADホールディングス社長

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── 2022年3月期の最終(当期)利益は過去最高でした。足元の経営環境は。

原 新型コロナウイルスの感染が大分収まり、政府の水際対策の緩和で明るい兆しが見えてきました。一方、ウクライナ侵攻の影響で先行きに不透明感もあります。現状から今期は、売上高に当たる正味収入保険料が4%増の3兆7530億円、最終利益は前期の反動も加味して、8.7%減の2400億円を見込んでいます。

── 収益の柱である自動車保険は新車販売台数が減少傾向にあり、足元でも半導体不足で自動車生産が減っています。

原 確かに足元の新車販売は減っていますが、日本全体の保有台数は微増です。4月に示した25年までの中期経営計画では自動車保険の落ち込みは小さいと見ています。火災保険は赤字が続きましたが、賠償責任保険や労災に上乗せするような新種保険の販売を強化し、利益を増やす考えです。保険引き受け利益に占める自動車比率は約7割ですが、これはコロナ禍による事故の減少という特殊要素がありました。次期中計が終わる25年度には新種保険を伸ばし、自動車以外を5割に引き上げる目標を掲げています。

── 自動車保険でいえば、走行データなどを活用する「テレマティクス」に力を入れていますね。

原 テレマティクスは、自動車の通信機能を活用し、走行データや運転特性の情報を基に安全運転の程度をスコア化し、それに応じて保険料を割り引く仕組みで、事故頻度が下がる効果が出ています。事故の際はドライブレコーダーの映像を基に調査しますが、今までは被害者と加害者の言い分が異なった場合に時間がかかっていました。解決までの時間短縮により、顧客満足度と1年ごとの契約更改率がともに上がっています。

── 事故発生時の経済的損失を穴埋めするのが従来の保険ですが、最近は事故を減らすための解決策を提示しています。

原 当社は「リスクソリューションのプラットフォーマー」を目指しています。リスクに対する解決策を提供し、保険商品にプラスしてコンサルティング機能を高度化しています。例えば気候変動関連でいえば、洪水リスクが高まっています。当社のベンチャーキャピタルが出資した米スタートアップのジュピター社が、世界地図上で90メートル四方の尺度で洪水の浸水深をAI(人工知能)で予測するシステムを持っており、当社グループのリスクコンサル会社と組んで、企業向けに気候変動対策のコンサルを始めています。

傘下損保の機能再編

── 傘下の三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保など複数の損保会社をどう効率化しますか。

原 これまで内部監査などの機能を持ち株会社に移すなどして機能別再編を進めました。コスト削減と効率化につながり、再保険料を加味しない元受け保険料の増収率では、三井住友海上とあいおいニッセイ同和が4年連続で大手損保の上位2位を占めています。

 さらに、今回の中計では、「1プラットフォーム戦略」を打ち出しました。一部の大口団体契約や特定チャンネルに向けた商品は共通化せず、営業事務や商品開発など一体化できる部分は極力進めて、効率的な保険金支払い体制、商品供給体制を構築する考えです。

── さらに進んで、傘下の損保会社を合併する考えは。

原 合併という選択肢もありますが、営業は各会社が担い、まずは1プラットフォーム戦略をしっかり進めます。損害サービスでは共通システムを開発し、21年度にまず三井住友海上の自動車保険がそのシステムに入りました。同社の火災保険、傷害保険、新種保険などが23年度、あいおいニッセイ同和の合流が25年度になります。

── 傘下には保障性商品に強い三井住友海上あいおい生命と、資産形成型が強い三井住友海上プライマリー生命もあります。傘下企業の強みをどう生かしますか。

原 シナジーの発揮は重要で、新中計でも強く打ち出しています。損保は企業の従業員が加入する団体契約があり、自動車保険や傷害保険の団体数が多い一方、生保は未開拓です。ネットなどで加入者を募集できる仕組みを作りたいです。リスクコンサル会社をグループの軸とし、データやデジタルをを活用した業務の高度化も進めます。

── 米国をはじめ海外49カ国に進出し、東南アジア諸国連合(ASEAN)では10カ国すべてに拠点があります。今後の海外戦略は。

原 米国では賠償責任保険が主体の保険会社などをM&A(合併・買収)できないか検討しています。また、ASEANは中間層が伸び、数年先にはGDP(国内総生産)の合計が日本を抜くといわれています。まずは現地の銀行を中心とした金融系と組んで、伸びるリテール市場を強化していく考えです。

(構成=梅田啓祐・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 入社2年目に担当顧客が自動車事故を起こし、被害者宅に説明に行くように頼まれ、二つ返事で引き受けました。一人で到着すると大勢の親戚の方々から質問攻めに遭い、右往左往しました。基本知識を習得し、事前準備の大切さを痛感しました。

Q 最近買った物は

A ピンクと黄色の明るい色のネクタイです。

Q 「好きな食べ物」は

A 会社近くにあるカレー屋や、名古屋名物のあんかけスパゲティです。


事業内容:損害保険事業、生命保険事業、金融サービス事業など

本社所在地:東京都中央区

設立:2008年4月

資本金:1005億円

従業員数:3万9962人(22年3月末、連結)

業績(22年3月期、連結)

 経常収益:5兆1320億円

 経常利益:3904億円


■人物略歴

はら・のりゆき 1955年長野県出身。愛知県立旭丘高校卒、東京大学経済学部卒業。78年大正海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社。三井住友海上火災保険執行役員、副社長などを経て、2016年4月から同社長、20年6月から現職。67歳。

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