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経済・企業SDGs最前線

SDGs最前線③大塚実業 「ろ布」で廃液、排気から環境を守る――他社の追随許さぬ加工技術で「ろ過」巡る顧客の課題を解決

大塚実業の大塚雅之社長
大塚実業の大塚雅之社長

 国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの新連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。第3回目は、ろ過によって液体などから特定の成分を分離する「ろ布」を開発・製造する大塚実業(栃木県足利市)を紹介する。

【大塚実業が実践するSDGsの目標】・目標3(すべての人に健康と福祉を)・目標4(質の高い教育をみんなに)・目標6(安全な水とトイレを世界中に)・目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)・目標8(働きがいも経済成長も)・目標13(気候変動に具体的な対策を) 

廃液や排気をろ過、環境汚染を防ぐ「ろ布」

 大塚実業の主力商品である「ろ布(濾布)」は、簡単にいえば「繊維でできたフィルター」のことだ。液体や気体などの特定の成分を取り除いたり、分離したりすることができる。例えば、工場の廃液や排気などをろ過することによって清浄な水や空気を作ることができる。一般にはなじみの薄い製品だが、環境汚染を防ぐためには不可欠の道具だ。

大塚実業の本社
大塚実業の本社

 「取引先の用途や目的に応じて、ろ布を多品種・小ロットで開発できるのが私たちの強みだ」。大塚実業の大塚雅之社長は言葉に力を込める。大量生産・大量消費が一般的な繊維業界で、顧客の仕様に合わせて製品を加工し、納品するのは珍しい。取引先は製鉄や半導体関連など年間400社を超える。従業員40人程度の中小企業だが、大塚氏は「フィルター業界の中で比較的、後発企業であるだけに小ロットでも丁寧に対応できるビジネスモデルをつくってきた」と胸を張る。

他社が真似できない高度な「大塚カレンダー加工」

 オーダーメードで最適なフィルターを作れれば、効率的なろ過ができ、環境にも企業の財布にもやさしくなる。それを支えるのが「大塚カレンダー加工」と呼ばれる同社の技術だ。工場の排水に使う場合、プリンターに使う場合など、必要なろ布の生地はそれぞれ違う。大塚実業は、特殊な加工機のローラーで熱と圧力を加えて、繊維の隙間を用途に応じて調整し、最適なろ布の生地を作り出すという。大塚社長は「ある企業が、高度な技術を要するろ布の製造を同業他社に依頼したところ、『そんなものは大塚実業に頼んでくれ』と言われたそうだ」と話す。

大塚実業の工場
大塚実業の工場

製品だけでなく、顧客密着で「ろ過」巡る課題全体を解決

 寿命の長いろ布を製造できるのも大塚実業の強みの一つ。ろ布の寿命が短くなる最大の原因は「目詰まり」だ。生地の隙間を細かくすればするほど多くの成分を除去できるが、その分、詰まりやすくもなる。いわゆるトレードオフ(二律背反)の関係だ。このため同社では、顧客の用途や使用量などを詳細に聞き取って分析。何度もテストを繰り返し、寿命ができる限り長く、性能も損なわない最適な生地をつくっているという。

加圧脱水機に使われるフィルタープレス用のろ布(大塚実業提供)
加圧脱水機に使われるフィルタープレス用のろ布(大塚実業提供)

 単に「フィルターを販売する」のではなく、「液体やろ過にかかわる顧客の困ったことや課題を解決する」というのが同社の考え方。大塚社長は「単純に繊維を強くしても性能が下がってしまうケースが多く、取引先と打ち合わせし、何度も何度もテストを繰り返して最適な生地をつくっていくことが大事」と話す。

取引先メーカーのろ布の寿命は2倍以上に

 こうした努力により、取引先のあるアルミ加工メーカーでは、排水処理のろ布の寿命が従来の2倍以上に延びた。実はこのメーカーでは、薬品の変更により廃水の質が変化し、従来のろ布では極端に目詰まりが早くなっていた。打ち合わせとテストを繰り返し、最適な製品を提案したところ、それまで「約2カ月」で交換していたろ布を「約5カ月」も使用できるようになったという。

遠心分離機用のろ布(大塚実業提供)
遠心分離機用のろ布(大塚実業提供)

 コロナ禍によるサプライチェーン(供給網)の混乱やロシアによるウクライナへの侵攻などを受けて原材料価格が世界的に上昇する中、資源の無駄遣いやコストの拡大を避けるのは、多くの企業にとって重要なテーマ。大塚実業が顧客の多品種・小ロットの要望にもきめ細かくこたえる努力をした結果、SDGsにも貢献できているといえるだろう。

カンボジアで飲料水用の井戸づくり

 大塚実業が製造する「ろ布」は廃液などのろ過を通じて環境に貢献する製品だ。ただ、同社はそれ以外の分野でも社会貢献に熱心に取り組んでいる。例えば、発展途上国の飲料水確保に向けた井戸の掘削だ。途上国を支援する日本の公益財団法人、CIESF(シーセフ)がカンボジアで、未来の国のリーダーを育てることを目的とした一貫校「CIESF Leaders Academy」を設立したが、現地には水道がなかった。そこで大塚社長は、井戸をつくって水を供給しようと提案したという。

 CIESFの大久保秀夫理事長は「井戸水に適した水質の場所を探すために掘削に何百万円も掛かるので、私がそれを出そうとすると、彼は『結構です』と言って自腹で井戸を掘り、学校に水を供給してくれた。学校関係者をはじめ、生徒・ご家族も大喜びして、感激していた」と話す。

工場にソーラーパネル設置、温暖化ガスを削減

 同社は、自社工場の温暖化ガスの削減にも取り組んでいる。2022年度中には栃木県の工場の屋根にソーラーパネルを設置し、工場から排出する二酸化炭素(CO₂)を実質ゼロにする方針だ。SDGsでは「安全な水とトイレを世界中に」、「エネルギーをクリーンにそしてみんなに」などの目標を掲げている。大塚実業の経営理念は、SDGsのこうした目標に合致している。

「SDGs経営」が生み出すイメージの向上 

 大塚実業の行動は、社内外で同社のイメージを引き上げている。帝人フロンティアの繊維資材第二本部の中島英典本部長は「大塚実業は、事業の拡大のみならず、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の活動にも積極的に取り組んでいる。帝人グループである弊社でもなかなかできていないようなことを、大塚社長は率先して活動している」と評価する。

 大塚実業の社員の1人は「大塚実業は事業そのものがSDGs」と話す。「大塚実業が取り扱っている『ろ布』は、工場などの環境保全に使う商品。自分の仕事に誇りが持てる」という。「企業が社会貢献を意識した経営を実践し、取引先と良い関係を構築する」「社員たちも自社の事業の社会性を認識し、やりがいを見出す」――。

 大塚実業の「SDGs経営」「ステークホルダー(利害関係者)の要望をとことん重視する経営」は、社内外の信頼という味方を得て、同社の持続可能な事業運営に役立っているといえそうだ。

(加藤俊・株式会社SACCO社長、編集協力 P&Rコンサルティング)

【筆者プロフィール】

かとう しゅん

加藤俊

(株式会社SACCO社長)

Sacco社長加藤俊氏
Sacco社長加藤俊氏

企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki(https://coki.jp/)」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

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