④セムコ――燃料タンクの内容量計測する「液面計」で海と船の安全を守る ジェンダー平等で女性活躍も推進
国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの新連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。第4回は、船の燃料タンクなどの中にどのくらいの量の液体が入っているかを調べる「液面計」製造で国内トップシェアを誇るセムコ(兵庫県神戸市)を取り上げる。同社の宗田謙一朗社長は「当社の液面計を使うことで、液体量を調べるために必要だった危険な高所作業やそれに伴う大きな事故を防ぐことができる」と胸を張る。
【セムコが実践するSDGs項目】・目標5(ジェンダー平等を実現しよう)・目標8(働きがいも経済成長も)・目標11(住み続けられる街づくりを)・目標14(海の豊かさを守ろう)
地上で確認できる「箱型」液面計で船員らのリスク低減
大海原を疾走して世界各国から原油などを運ぶ船舶の機関室。30センチメートル角と小さいながらも船や船員の安全を守っている「液面計」という機器がある。液面計は、燃料タンクや容器の中にどのくらいの液体が入っているかを調べる計測器のこと。セムコは、この機器の生産で国内トップシェアを占めるメーカーだ。
船の機関室には、燃料タンクだけでなく、機械の潤滑油、船員が飲む飲料水など20~30もの大型タンクが設置されている。こうした液体の残量を把握していなければ、海上で枯渇し、運航に支障が出たり、事故につながってしまったりする恐れがある。このため、それぞれのタンクの残量を正確に把握することは重要な作業だ。ここで活躍するのがこの液面計という聞き慣れない名前の機器である。
機関室に設置されている大型タンクは、高さが10メートルにのぼるものもある。かつては船員たちが梯子を使って登り、目視で確認していたため、正確さに欠けていた。さらに、船の揺れなどで梯子から転落し、ケガをする可能性があった。こうした危険を低減するため、セムコが約35年前に開発し、同社のシェアを飛躍的に高めた製品が「箱型の液面計」だ。タンクの外に設置した計器の目盛りを地上で確認すればよく、宗田社長は「梯子で高所に登らずに液体量を確認できるため、船員の安全を守りながら迅速かつ正確な作業ができるようになった」と話す。
「クラウド型」の液面計で配送効率化、高齢者の見守りサービスも
すでに国内トップシェアを誇る同社の液面計だが、セムコはさらに新しい試みを始めている。例えば、事務所にいながらにしてタンクに入っている灯油や重油などの液体量がわかる「クラウド型タンク監視アプリ」だ。
従来、タンク中の灯油や重油の残量は、配送業者の従業員が一軒一軒をまわって確認していた。このため、仕事が非効率になり、労働負担も重かった。しかし、同社が開発した「クラウド型」は、液面計のセンサーをタンクに付けて、クラウドで情報を共有することができる。油の配送や廃油回収の配送が効率化され、配送業者の負担も軽くなる。将来は、油の使用料を解析して、居住する高齢者に異常がないかを確認する「見守りサービス」への活用も期待できるという。
同社の液面計や新しいサービスは、SDGsの目標14(海の豊かさを守ろう)はもちろん、目標11(住み続けられる街づくりを)の達成にも貢献できる可能性を秘めているといえそうだ。
従業員の半分は女性、ジェンダー平等も推進
同社はSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や目標8「働きがいも経済成長も」の達成にも取り組んでいる。セムコでは45人の従業員のうち、女性が半分を占める。宗田社長が入社した1997年時点では9割が男性だったが、「1人で何役もこなしていた経験豊富なベテラン社員が続々と退職していくため、従業員を増やして分業せざるをえなくなった」(同氏)という。
多くの社員を採用するため、性別にかかわらず有能な人を採用するようになったことが奏功し、多くの優秀な女性が入社してくれるようになったという。宗田社長は「結婚や出産をきっかけに退職する女性社員がいないわけではない」としながらも、「一般に女性は真面目で責任感が強く、入社してもらって本当に良かったと感じることが多い」とその利点を強調する。
同社は、従業員の年間の休日数を135日に増やすなど休暇を取りやすくし、労働環境の改善にも努めている。これはセムコと同規模の企業の平均休日数に比べて20日以上も多い数字だ。社員からも「土日を合わせて最大9連休を取得できる『リフレッシュ休暇制度』があるのが嬉しい」などと好評で、労働生産性の向上や離職率の低下につながっている。
ステークホルダーもセムコの液面計の将来性に期待
セムコの宗田社長は共通目標を持つことなどで組織力を高める「チームコーチング」を自ら学び、自社の生産性を高めてきた。船舶用の機器・部品の販売・メンテナンスを手がけるエヌワイ(東京・港)の吉川伸也社長は、セムコについて「同じ業界で同一の問題意識があり、同じ中小企業の経営者でもあり、置かれている境遇が似ている」と指摘。ビジネスパートナーである宗田社長からチームコーチングの教えを受けた結果、「風通しが良くなり、上も下も関係なく、誰にでも意見ができる雰囲気ができつつある」と話す。
長野県・奥蓼科で温泉宿を営む明治温泉は、セムコと共同で、タンクに灯油がどれだけ残っているかを液面計で調べられるようにするプロジェクトを実施している。同温泉の鈴木義明オーナーは「船や燃料に限らず、さまざまな分野で活用できるのではないか」と話す。この小さな計測機器を軸に、セムコが今後、どんな新しい展開を見せるのか。多くのステークホルダー(利害関係者)たちが、大きな期待とともに見守っている。
(編集協力 P&Rコンサルティング)
【筆者プロフィール】
かとう しゅん
加藤俊
(株式会社SACCO社長)
企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki(https://coki.jp/)」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。