経済・企業2022年の経営者

請求書のDXユーザーに受発注システムも売り込みたい=中島健・インフォマート社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

企業間の商取引を効率化する

中島健 インフォマート社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)>>>これまでの「2022年の経営者」はこちら

── 主力の「BtoBプラットフォーム」とは、どのようなサービスですか。

中島 当社は、BtoB(企業対企業)の商売上の取引を電子化・標準化するプラットフォームをつくっています。商売上のやり取りには、例えば発注、請求、見積もり、契約などがありますが、これらはこれまで書面やファクス、電話などで行われてきました。当社はこうしたやり取りを決まったフォーマットで、ウェブ上で行えるようにしました。

 例えば、紙の請求書のフォーマットは企業によって異なりますが、請求金額など必要な項目はすべて同じです。それなら共通化しても深刻な問題は起きません。独自の書式にこだわるのは無駄だと思います。当社は企業間のやり取りを効率化し、無駄をなくしたいと考えています。

── 特に飲食業界向けに強みを持つそうですね。

中島 創業時に、まず飲食業界向けにサービスを始めたことがきっかけです。食材の見積もりから発注、納品書、最後の請求書まで、一連のやり取りをセットにした受発注システムを提供しています。

 飲食チェーンでは約半数が当社のサービスを利用しており、「1強」と言える状況です。

── 特に複雑なシステムではないように思えますが、なぜそこまで強くなったのですか。

中島 システムを商品の売り手と買い手の両方に使ってもらう必要があり、そのために多大な労力をかけています。細かい営業活動に加え、説明会を開催したり、コールセンターを設けたりして、地道にユーザーを増やしてきました。ここで得たノウハウが強みになっています。

── 飲食業界以外の展開は考えていないのですか。

中島 過去には美容業界や動物病院業界に受発注システムで進出しましたが、失敗しました。業界固有の取引のやり方があり標準化ができなかったことに加え、当時は当社の信用もなかったからです。

 しかし、2015年に請求書だけのシステムを始め、美容や動物病院を含めた幅広い業界に利用されています。商取引の最後の請求書のところだけ電子化してほしいという声が顧客から多く上がっていました。飲食業界のみに受発注システムを提供していた1998年から15年までの17年間でユーザー数は4万社に増えましたが、請求書システムを始めた15年から現在までの7年間で70万社まで増えています。請求書は全業界向けなので、一気に伸びてきました。

DXの波に乗る

── 新型コロナウイルス禍による事業への影響は。

中島 短期的に見ると、コロナ禍で飲食業界が相当ダメージを受けており、当社にとっても大きなマイナスです。

 中長期的に見れば、DX(デジタル化)が急激に進んでいることはプラスです。この大きな波にうまく乗ることができれば、これから楽しみだと思う一方、競争も激しくなるので、うかうかしていられないという思いもあります。

── 今後のサービス拡大はどう考えていますか。

中島 受発注システムの業界を広げることと、サービスの種類を増やすことの2通りの展開を考えています。受発注システムは現在、飲食業界向けが中心ですが、他業界でもチャンスがあれば狙いたいと思っています。請求書システムを幅広い業界に広げていく中で、請求書から領域を広げられそうな業界を見つけ、そこに入っていく方針です。当社は請求書システムを「橋頭堡(きょうとうほ)」だと位置づけています。請求書システムのユーザーを増やしたうえで、最終的には受発注システムを利用してもらいたいと思っています。

── 最近は他社との協業が増えています。

中島 サービス拡大のもう一つの展開として、既にBtoBのベンダーがいる業界では、そのベンダーと協業します。例えば、製造業の生産管理システムを提供するテクノアと協業して、製造業向けの受発注システムを始めました。

 こうした協業は現在進めている「単品売り・自前主義」脱却の一環でもあります。これは現在の経営課題の一つです。当社は今まで、自社で作った「BtoBプラットフォーム」という単品しか売ってきませんでした。かつてのワープロソフトの競争で起きたように、単品の製品だけでは負ける可能性があります。請求書システムしか売らないのではなく、請求書システムを協業企業のサービスと連携させる。これが協業の目的です。

── 他にはどんな経営課題がありますか。

中島 これからAI(人工知能)を使ったデータビジネスは重要になってくると思います。当社は年間20兆円の商流の情報を持っており、データビジネスを有利に進められる立ち位置にいます。これをモノにすることが将来的な課題になると思っています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 銀行員で、新規事業開発を担当していました。創業間もないインフォマートに出会い、当時からビジネスに魅力を感じていました。

Q 「好きな本」は

A P.F.ドラッカーの『マネジメント』で、今まで3回読みました。1回目は2日で読めましたが、3回目は2週間かかり、それだけ深い内容だと思います。

Q 休日の過ごし方

A 会社で借りている畑で、社員と一緒に野菜などを育てています。ラグビー観戦にもよく行きます。


 ■人物略歴

なかじま・けん

 1966年東京都出身。私立早稲田実業学校高等部卒業、早稲田大学教育学部卒業。88年三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2010年にインフォマートに入社し、経営企画本部長、常務取締役を経て、22年1月から現職。56歳。


事業内容:B to B(企業間電子商取引)プラットフォームの運営

本社所在地:東京都港区

設立:1998年2月

資本金:32億1251万円

従業員数:633人(2022年3月現在、連結)

業績(21年12月期、連結)

 売上高:98億3500万円

 営業利益:10億3000万円

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