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経済・企業 2022年の経営者

研究費は売上高の8~9%、低負荷農薬の開発強化=八木晋介・日産化学社長

Photo 武市公孝 東京都中央区の本社で
Photo 武市公孝 東京都中央区の本社で

ニッチな分野で「なくてはならない」戦略が奏功

八木晋介 日産化学社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)>>>これまでの「2022年の経営者」はこちら

── 化学メーカーとして2022年に創業135年を迎えました。

八木 当社は1887年に日本初の化学肥料メーカーとして創業しました。1937年に日産コンツェルン傘下に加わりましたが、戦後は独立して「日産化学工業」と改称。工業の枠を超えた事業展開になっていることを踏まえ、2018年に現社名に変更しました。

── 22年3月期の営業利益は510億円で、8年連続の過去最高益を更新しました。景気の変動を受けやすい化学業界にあって、新型コロナウイルス禍や景況に左右されずに利益を伸ばし続けられたのはなぜでしょう。

八木 事業ポートフォリオとして、外部環境の影響を受けにくいニッチな分野を狙っています。他社があまり手をつけていない部分で高いシェアを獲得しており、「なくてはならない」製品で勝負する戦略が奏功しています。

── 特に業績をけん引している事業は何ですか。

八木 21年度は化学品の中で基礎化学品とファインケミカルが売り上げを伸ばしました。また、16年度から6年間の中期経営計画の期間中には、液晶ディスプレーや半導体向けの機能性材料が大きく伸び、農薬や動物医薬品といった分野もけん引しています。主要セグメントの売上高に占める割合は、機能性材料が4割、農業化学品が3割、化学品が2割、ヘルスケアなどが1割ほどです。

── 中でも液晶ディスプレーや半導体関連の事業は、市場環境が活況で追い風です。強みがある製品はどのようなものですか。

八木 コロナ禍以前から、液晶ディスプレーや半導体関連はテレビ、スマートフォンの需要増で伸びると見込んでいました。例えば、スマホの液晶ディスプレーには、液晶分子を並べる基板上に「配向膜」という部材が不可欠で、当社の主力製品「サンエバー」をデバイスメーカーに供給しています。また、微細化された半導体の製造に必要なリソグラフィー(露光装置)用に提供している半導体用反射防止コーティング材も好調です。こうした先端材料は同業他社より少しでも早く提供しようと、開発に力を入れています。

たゆまぬ農薬開発

── 農薬の分野でも幅広い製品を販売しています。

八木 農薬では、イネ目の雑草に有効な除草剤「アルテア」が高いシェアを占めています。また、幅広い作物害虫に速効的に作用する一方、有用昆虫のミツバチには影響が少ない自社開発の殺虫剤「グレーシア」も好評です。当社の農薬は原体を有機合成で作り、液剤や粉剤などに仕上げて販売しています。02年には、優れた除草効果を備え、世界で幅広く使われている除草剤「ラウンドアップ」の国内事業を買収し、好調です。

 雑草は徐々に耐性がつきますし、ダニも世代交代によって早ければ1年で薬剤が効かなくなるので、農薬には進化が必要です。そのため、埼玉県内の生物科学研究所では世界のさまざまな気候を再現して、昆虫や微生物、菌などの研究に取り組んでいます。

── 化学品事業の構造改革に伴い、接着剤や化粧板に使われる樹脂原料「メラミン」の生産を6月に停止しました。その理由は。

八木 当社は1964年から独自製法で生産を続けてきましたが、近年は世界的にメラミンの生産能力が需要を上回り、中国勢との価格競争も激化しています。採算悪化を踏まえ、改革を実行しました。

 その一方で、化学品の中では、ディーゼルエンジン車などの排ガス規制の高まりに伴い、有害な排出ガスを浄化する「尿素SCRシステム」向けの高品位尿素水が着実に伸びています。同システムを採用する車では、タンク内の尿素水がなくなるとエンジンの再始動ができなくなるため、必要不可欠な製品であり、伸びが期待できます。

── 22年度から6年間の新中期経営計画では、24年度に売上高2550億円(21年度は2080億円)を掲げています。どのように達成しますか。

八木 既存の主要セグメントの伸びを確実に得ながら、成長の源泉となる新製品を育成し、供給することを前提としています。売上高は27年度に21年度比770億円増を想定しており、現有製品の伸びが510億円、新製品の伸びは260億円という内訳です。

── 新製品を生み出すには研究開発力が重要になります。

八木 当社の売上高に占める研究開発費の割合は、同業他社に比べて8~9%と高く、研究開発には非常に注力しています。例えば農薬でいえば、将来的には社会課題を踏まえて、環境負荷を軽減する観点から、微生物農薬や有機農薬の開発を強化する必要があります。農薬開発には10年程度かかることもあり、早めに手を打つ必要があるのです。そのために情報科学を導入し、開発スピードを向上させ、新たな技術開発にも積極的に取り組んでいきます。

(構成=梅田啓祐・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 富山工場で生産技術のエンジニアとして樹脂原料のメラミンを担当していました。新工場を建設したいとの思いを持ちながら、トラブルには迅速に対処するといったエンジニアとしての基礎を学びました。

Q 最近買った物は

A レコード盤を買いました。ポップスをよく聴いています。

Q 休日の過ごし方

A テニスなどのスポーツで汗を流しています。当社のテニス部にも所属して活動しています。


事業内容:化学品、機能性材料、農業化学品、医薬品原薬などの開発・製造・販売

本社所在地:東京都中央区

創業:1887年

資本金:189億4200万円

従業員数:2737人(2022年3月現在、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:2080億円

 営業利益:510億円


 ■人物略歴

やぎ・しんすけ

 1962年富山市出身。富山県立富山中部高校卒、東北大学工学部卒業。85年日産化学工業(現・日産化学)入社。2016年執行役員袖ケ浦工場長、18年常務執行役員、20年取締役専務執行役員を経て、21年4月から現職。60歳。

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