教養・歴史書評

三題噺を経済学的に解く、そのココロは?=評者・土居丈朗

『データとモデルの実践ミクロ経済学 ジェンダー・プラットフォーム・自民党』 評者・土居丈朗

著者 安達貴教(京都大学大学院准教授) 慶応義塾大学出版会 2970円

経済学のデータ分析 幅広い分野へ応用の可能性示唆

 岸田文雄内閣も政府を挙げて推しているスタートアップ(成長速度の速い企業やプロジェクト)に関して、ジェンダー・ギャップがなぜ生じているのか。コロナ禍で、非接触型ビジネスとしてさらに活発になったネット販売などのプラットフォーム事業者は「搾取」や「差別」をしていると指摘されることがあるが、その余地があることの中には社会的に望ましいことも含まれているのではないか。そして参院選が終わり、岸田内閣では内閣改造が予想されているが、与党の各派閥は、内閣改造に何を期待しているのか。

 一見バラバラに見えるこれら三つの現象は、ほぼ一貫した経済学の分析で説明できる、と著者は言う。

 これらの現象は明らかに独立して起きているものだが、本書の副題の通り、その背景にある関係当事者の行動を解き明かす共通項がある、と著者はみる。これらの現象を統一的な経済理論で説明しようとする試みが、本書の醍醐味(だいごみ)と言ってよい。

 紙幅の都合で、三つのうち組閣に焦点を当てたい。新内閣の発足や内閣改造を含めて「組閣」と呼べば、著者は組閣を「交渉」と捉える。首相と各派閥の人選交渉というわけだ。閣僚という影響力のある資源(パイ)には限りがあり、それを与党内でどう分配するかを交渉するのである。著者はこうした「交渉」「資源」といった経済学理論を用いて政治を分析する。

 小泉純一郎内閣期には、例外的に首相の一本釣り的に派閥の力学を超えて閣僚を人選していたとされるが、わが国の55年体制以降の内閣では、多くの時期で派閥均衡が図られていた。今日もかつての状況に近いとみる向きもある。

 では、各派閥は、どの大臣ポストを欲するのか。大臣によって影響力は異なる。著者らの研究によると、公共事業系の大臣(旧建設相・旧運輸相)が重視されてきたことがデータから明らかになった。省庁再編後も、その傾向は続いているという。

 ただ、近年では公明党議員がその大臣職にある。でもそれは、私見では、国交相は、経済財政諮問会議の常任議員となる大臣ではないから(発足以来諮問会議の常任議員となる大臣を自民党以外の政党の大臣が務めたことはない)で、その意味では保有議席相当の影響力を自民党以外の連立与党が発揮していることがその結果に反映したのかもしれない。大臣の軽重は、そうした制度的な影響も加味されるべきだろう。ともあれ、経済学が幅広い分野で役立つことを示唆した興味深い書である。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


 あだち・たかのり 米ペンシルベニア大学博士(経済学)。東京工業大学、名古屋大学勤務などを経て2021年より現職。産業組織論、競争政策論、応用ミクロ経済学、実証ミクロ経済学が専門。

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