教養・歴史ロングインタビュー情熱人

お城の魅力を伝える 城郭考古学者、千田嘉博さん

「お城に眠るそれぞれの物語を知ることで、地域や郷土への愛着が増します。」京都市中京区の二条城東南隅櫓前で前で 撮影=片岡仁
「お城に眠るそれぞれの物語を知ることで、地域や郷土への愛着が増します。」京都市中京区の二条城東南隅櫓前で前で 撮影=片岡仁

千田嘉博 城郭考古学者 奈良大学教授/43

 多角的な手法で城の実像に迫る城郭考古学の専門家、千田嘉博さん。少年時代に抱いた城への憧憬を胸に、全国各地の城跡に足を運んでいる。貴重な文化財を後世に伝えようと城の魅力発信と保存修復に、情熱を燃やす。

(聞き手=梅田啓祐・編集部)>>>これまでのロングインタビュー「情熱人」はこちら

「年に400カ所近くのお城に足を運んでいます」

── 城郭考古学の専門家として、歴史関連のテレビ番組やイベントで大活躍ですね。

千田 本当に各地から講演の依頼があって、先日も鹿児島県に行ってきました。講演をきっかけとして、朝一番の飛行機に乗って鹿児島城跡を堪能してきましたよ。鹿児島城は今、国指定史跡に向けた発掘調査が進んでいて、現地の学芸員の方の案内で最新の研究成果を勉強することができました。よかったです。

── お城には年間で何カ所ぐらい足を運んでいるのでしょうか。

千田 毎週必ずどこかのお城に行っています。同じお城に何度も行くこともありますが、週4日は奈良大学の授業があるので教育と指導に集中し、それ以外はお城の研究にまい進しています。年間でいえば400カ所近くのお城に足を運んでいます。先日も鹿児島の帰路に途中下車をして熊本城跡に寄ってきました。私は熊本城の文化財修復検討委員会の委員も拝命しているので、熊本城の修復状況や発掘状況を見て、意見交換をしてきました。

姫路城に心奪われ

── お城を好きになったきっかけは。

千田 私は中高一貫校に通っていたので高校受験がなく、のびのびとした中学校生活を送っていました。中学2年の夏休みに初めて友達と旅行計画を立てて小豆島と淡路島に行きましたが、その道中、新幹線の車窓から姫路城が目に入り、力強さや美しさに心を奪われました。「こんなすごいものがあるのか」と興奮しました。眺めていたのはわずか1、2分でしたが、とにかく感動したんです。その後は予定通り小豆島、淡路島を楽しみましたが、帰宅後も姫路城の姿が頭から離れず、自宅近くの名古屋市の図書館で調べてみました。

 その図書館にあるお城の本は全て読みました。すると、日本には3万超のお城があって、各地に天守が残っている城がいくつもあると書いてあるではありませんか。それ以来、「いつか日本中のお城に行ってみたい」と夢を抱き、地元の名古屋近辺のお城を皮切りに足を運ぶようになりました。中学や高校ではお城に熱中するあまり、先生には「学生としての勉強をしろ」と言われ続けましたが(笑)。

── 奈良大学で悲願だった城郭研究の道を本格的に突き進んだわけですね。

千田 大学ってなんていい所だろうと思いました。好きなことをやればやるほど褒められるわけですから。図書館に行けば、本はたくさんあるし、どこのお城にも行き放題でした。

 元々、考古学は土器や古墳などの遺物から文字のなかった時代を解析してきた学問です。一方、多くのお城が建造された戦国時代は古文書など文献史料が一定程度残されていて、1970年代はまだ、城郭研究は文献から迫る風潮が強く、考古学の分野ではないともいわれていました。考古学研究室は全国にありましたが旧石器や縄文、弥生などの、より古い時代が専門の先生が多く、お城を考古学の観点から学びたいといっても教えてくれる所がありませんでした。幸い、奈良大には文化財学科という従来の文献史学と考古学を融合させたような新しい研究室ができていたので、入学を決め、総合的にお城を研究することができました。

── 大学院に進学しなかったのはどうしてですか。

千田 大学を卒業する年に名古屋市が見晴台考古資料館の学芸員を募集していたので思い切って受けたところ、狭き門でしたが、なぜか受かったのです。4年間勤めましたが、これがまた楽しかった。名古屋市内では開発予定地に遺跡があった場合は事前に発掘し、記録を残す必要があり…

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