シアマ監督が「ささやきのマジック」で描く哀惜と鎮魂=芝山幹郎
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映画 秘密の森の、その向こう
少女がひとり、老人ホームの個室を順番にまわり、居住者に別れを告げている。やがて少女は居住者のいない部屋に入る。部屋では、少女の母親らしい女が衣類や食器を片づけている。母方の祖母が亡くなったのだ。「杖(つえ)をもらっていい?」と少女は母親に尋ねる。
なにげない始まりだが、見る側の神経をきゅっと締めつける電波が感じられる。ぼんやり眺めていてはいけない、という警告も頭のなかで響く。娘は父母の車に乗せられ、祖母が昔住んでいた家に向かう。遺品整理が行われるらしい。
8歳の少女はネリー(ジョセフィーヌ・サンス)という。母の名はマリオン(ニナ・ミュリス)。3人が到着した祖母の家の裏手には、静かな森が広がっている。ネリーが森の探検に出かけると、いつの間にか母の姿が消えてしまう。悲しみに耐えかねて、生家を立ち去ったようだ。
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週刊エコノミスト
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