英トラスノミクスにくすぶる財政危機の懸念 増谷栄一
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トラス英新首相(9月6日就任)は高インフレに苦しむ英国経済を再生させる狙いで、1500億ポンド(約24兆5000億円)のエネルギー価格保証プログラムと300億ポンドの減税措置からなる「成長ダッシュ戦略」を発表した。首相の名にちなみ「トラスノミクス」と呼ぶ。
戦略の一つに、国民が負担する電力とガスのエネルギー料金の上限を2024年までの2年間、現行の年間2500ポンドに凍結するエネルギー価格保証プログラムがあり、インフレを急速に低下させる可能性が高いと多くのエコノミストが歓迎する。その一方で、 英通貨ポンドは9月7日に続いて同16日にも、一時、ドルに対し1985年以来37年ぶりの安値(1ポンド=1.14ドル)に落ち込んでおり、通貨価値の維持に懸念が広がっている。
クワーテング新財務相は、サッチャー元首相(在任1979~90年)の急進的な経済政策(サッチャリズム)に焦点を当てた政治史『サッチャーのトライアル』の著者として知られる。英紙『デイリー・テレグラフ』のジェレミー・ワーナー氏は9月13日付コラムで、「クワーテング氏は、経済を回復させるためのアイデアを求めて、ローソン元財務相(サッチャー政権の83~89年)の回顧録を読み返しているといわれるが、(成長ダッシュ戦略には)落とし穴があることに気付く必要がある」と戒める。
ワーナー氏によると、ヒース元首相(在任70~74年)は所得税減税や低税率の付加価値税の導入、銀行システムの自由化を実施し、2年間で10%の年間成長率の達成を目標に掲げた。その結果、大規模な不動産バブルを引き起こし、バブル崩壊とインフレ上昇、公務員給与の引き上げ要求…
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週刊エコノミスト
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