経済・企業 EV&電池 世界戦
トヨタの呪縛 “巨人”はEVでつまずくのか 藤後精一
有料記事
「350万台」体制に踏み切ったトヨタのEV戦略に暗雲が漂い始めた。
降ろさない「全方位戦略」の旗と水素・合成燃料への執着
トヨタ自動車は昨年12月、2030年までに電気自動車(EV)を30車種投入し、新車販売台数を年間350万台とする計画や、車載用電池を含めたEV関連事業に4兆円を投資する計画を発表した。会見の場で豊田章男社長は「EVへの本気」を宣言した。
大手自動車の中でEVに最も否定的とされてきたトヨタが閉鎖・解体する直前の東京・お台場にあるトヨタ車のテーマパーク「MEGA WEB」で記者会見を開いただけに、エンジン車やハイブリッド車(HV)にこだわってきた過去との決別ともとれた。
ドイツのメルセデス・ベンツグループやアウディ、米ゼネラル・モーターズ(GM)などグローバルな自動車メーカーが30~40年代にEV専業となり、内燃機関から撤退することを表明。これに対しトヨタはこれまでHVや燃料電池車(FCV)など、全方位戦略を掲げ、欧米自動車が推進する“EV一辺倒”と距離をとってきた。
電源の化石燃料の使用割合が高い国で使用するEVは、上流資源開発から走行するまでの「ウェル・トゥ・ホイール」では二酸化炭素(CO₂)排出量が多い。トヨタはCO₂削減に向け地域のエネルギー事情に合わせて環境対応車を投入していく方針だった。しかし、グローバルで高まる脱炭素に向けたEVシフトには抗しがたく、トヨタはEV重視に徐々に傾いてきた。
昨年12月に公表した「EV350万台」の7カ月前、昨年5月の段階では30年の年間世界販売1000万台のうち、EVとFCVで200万台としていた。ちなみにトヨタは17年、「30年のEVとFCVの販売100万台以上」と発表していたが、EVシフトのペースが想定以上に速いとして19年に達成時期を25年に前倒ししている。
一方で、ホンダは40年までに内燃機関から撤退し、新車販売をEVとFCVのみとすることを昨年春に発表した。早々に内燃機関の撤退を表明したのは、内燃機関車向け部品を主力とするサプライヤーに対して早めに対応を促すのが目的だ。EVになるとエンジンと関連部品、燃料タンクと配管、排気系部品などが不要になる。EVの販売比率が高まると、これらの部品メーカーは仕事がなくなる。このため、ホンダは内燃機関向け部品のビジネスがある今のうちに業態転換することを取引先の部品メーカーに暗に示している。
取引先部品メーカーを守りたいとの意識はトヨタも強い。系列サプライヤーを巻き込んだ原価低減が、高収益率を生み出すトヨタの力の源泉だからだ。
トヨタはEV関連事業への巨額投資を発表しながらも、HVやプラグインハイブリッド車(PHV)、FCVも含めた「全方位戦略」の旗を降ろしていない。そこには世界初の量産型HVの技術で先行している強みを生かしたいとの思惑もあるが、内燃機関を搭載…
残り1313文字(全文2513文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める