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週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

マツダの“思想”を作る 自動車デザイナー、前田育男

世界一のデザインに選ばれた「ロードスター」と。「世界中に熱狂的なファンがいます」(東京都新宿区の関東マツダ高田馬場店) 撮影=中村琢磨
世界一のデザインに選ばれた「ロードスター」と。「世界中に熱狂的なファンがいます」(東京都新宿区の関東マツダ高田馬場店) 撮影=中村琢磨

前田育男 マツダシニアフェローブランドデザイン、自動車デザイナー/50

 身を削るようにして生み出したマツダのデザインコンセプト「魂動(こどう)」。引き算の発想から生まれる、光と影を映し出す外観は、国内外の自動車ファンを魅了する。(聞き手=浜田健太郎・編集部)>>これまでのロングインタビュー「情熱人」はこちら

── 過去10年、マツダ車は外観がよいと評判を確立しました。2010年に打ち出したデザインコンセプト「魂動」が契機でした。

前田 マツダのブランドの格を引き上げるには、デザインが鍵になると考えていました。自動車のデザインで取り上げられるテーマは時代とともに移り変わります。しかし、私は、流行に沿うものではなく、時代に左右されないフィロソフィー(哲学)を表現するものであるべきだと考えました。マツダには、運転者の思いと車の動きが一体感を持つ「人馬一体」という思想が受け継がれています。車が人間に近い存在であり、「魂」が感じられるべきだと考えました。

── 魂動デザインを採用した車、例えば「アクセラ」のハッチバックを後方から眺めると野生動物のような生々しい印象でした。

前田 魂を感じるものとして野生動物を研究しました。チーターなどが走るシーンの膨大な数の動画や静止画を集めて、何が美しいのかを研究したのです。動物たちは獲物を得るために荒野を駆け巡っています。生存のためのムダのない動きです。同様のことを車から感じ取れないかと考えました。

フォード傘下を離れて

── 09年4月に前田さんはデザイン本部長に就任しました。以前から、自動車のデザインには何らかの思想が必要だと考えていたのでしょうか。

前田 全社のデザイン・リーダーになる以前は、小型車「デミオ(3代目)」など個別車種のチーフとしてデザインを担当しました。当時は、マツダ全体のデザインまで目配りはできませんでしたが、会社のデザイン全体の方向性が左右にぶれることに不満を感じていました。以前からデザインには思想が必要であるとは考えており、私がリーダーに任命されたので、原点に立ち返ってマツダが未来永劫(えいごう)守るものを作りたいと思いました。

 バブル崩壊後に経営危機に陥ったマツダは1996年に米フォード・モーターの傘下に入り再建を進めた。08年の「リーマン・ショック」を機にフォードは出資比率を引き下げ、マツダは傘下から離脱。前田さんは生え抜きとして約10年ぶりのデザイン部門トップだった。マツダの初代デザイン部長は前田さんの実父の前田又三郎氏。独自の「ロータリーエンジン」を搭載したスポーツ車「RX─7(初代)」のデザイナーとして知られる。前田さんは後継の「RX─8」のデザインを担当。親子2代にわたってマツダの名車を生み出してきた。

── フォード主導の戦略が続いた中で、思い通りのデザインができないと葛藤はありませんでしたか。

前田 フォードがマツダに求めている位置付けと我々が目指す方向は違っていました。グローバル企業のフォードには当時、英国発祥のジャガーやランドローバーなどさまざまなブランドがあり、マツダはカジュアルで低価格帯というポジションに置かざるを得ないと。生え抜きデザイナーとして、もっと質の高いブランド、デザインも高品質のものを作りたいと思っていたので、ギャップを抱えていました。

イタリアで大絶賛

── 本部長就任後、デザインに関する市場調査をやめたそうですね。

前田 従来は市場の評価を反映したデザインを取り入れていました。モデルを作って不特定多数の意見を聞いて投票してもらうと。でも、一般の人たちが自動車メーカーのデザインを真剣に考えてくれるはずないじゃないですか。どういう視点で投票したのかわからない結果に委ねることにも違和感を覚えていました。マツダのデザインを誰よりも真摯(しんし)に考えているのは我々だけだと。それで「マーケティング・クリニック」をやめました。

── 市場調査をやめるのはリスクが高いと、上層部から反対はありませんでしたか。

前田 調査をやめる代わりに、我々が得た情報を自分たちのフィルターで解釈して、それ…

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