経済・企業ロングインタビュー情熱人

公益通報制度の意義を伝える ジャーナリストで上智大学教授、奥山俊宏

「内部告発には情報開示違反を明らかにする側面がある」(東京・四谷の上智大学) 撮影=武市公孝
「内部告発には情報開示違反を明らかにする側面がある」(東京・四谷の上智大学) 撮影=武市公孝

奥山俊宏 ジャーナリスト 上智大学教授/46

 内部告発者の保護を強化する改正公益通報者保護法が6月に施行された。長年、企業の不祥事を取材してきた奥山俊宏さんは、情報の目詰まりを正し、組織を発展させるためにも、公益通報の精神を生かすべきと強調する。(聞き手=稲留正英・編集部)»»これまでのロングインタビュー「情熱人」はこちら

「公益通報の精神を、組織の発展に生かす」

── 公益通報者保護法が6月に改正されました。どのような法律なのでしょうか。

奥山 組織の不正を直視し、その芽をできるだけ早く摘むため、企業の内部通報窓口や行政、マスコミに不正の情報を提供した内部告発者を法的に保護するのが目的です。2004年6月に成立、06年4月に施行されました。02年ごろから法制化を模索する動きがあったのですが、背景には、企業不祥事の続出がありました。00年に三菱自動車のクレーム隠し、02年1月に雪印食品の牛肉偽装事件、8月には東京電力の福島第1原子力発電所のひび割れ隠しが発覚しましたが、いずれも内部告発がきっかけでした。

 しかし、その後も11年のオリンパスの粉飾決算など大型の企業不祥事は続き、組織による内部告発者への報復もやみませんでした。なぜなら、公益通報者保護法は、内部告発者保護の考え方を世の中に示し、その履行を事業者にやんわりと促すにとどまっていたからです。行政の権限も刑事罰も盛り込まれず、事業者にとっては何ら怖くない法律でした。

行政に法執行の権限

── 今回の法改正のポイントは。

奥山 通報窓口の設置をはじめ、内部通報に対応するために必要な体制や内部告発者を保護するための体制の整備を従業員301人以上の全ての事業者に義務付けました。そして、これを守らせるための指導や勧告の権限を国に与えました。また、事業者の中で、内部通報に関わる人には守秘義務を課し、違反者には刑事罰(30万円以下の罰金)が科せられるようになりました。法執行の権限を行政が持ったことは大きな変化です。

── 奥山さんは、今年4月に、オリンパス、財務省など国内外のさまざまな内部通報の事例を紹介し、公益通報者保護法自体についても詳説した『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実』を出版しました。この分野の第一人者といえますが、内部告発に関心を持つきっかけは何だったのでしょうか。

奥山 私は1989年4月に朝日新聞社に入社し、最初の3年は茨城県の水戸支局、次の2年は福島県の福島支局で原発問題を取材しました。水戸近郊には東海村、福島には福島第1原発、第2原発があり、トラブルがちょくちょく発生していました。東海村では、動力炉・核燃料開発事業団で高放射性廃液の貯蔵施設の電源喪失、福島では福島第1の2号機で、原子炉の水位が3メートル下がり、緊急炉心冷却システムが作動したりして、そのたびに記事を書いていました。

 水戸でも福島でも、結構、調査報道はやっていて、地元の建設業界と政治家の癒着や談合などについて取材していました。その延長線上で、経済事件で調査報道をやりたいと希望し、94年に東京社会部に異動しました。

── 東京社会部ではどんな取材を。

奥山 当時、大蔵省の中にできたばかりの証券取引等監視委員会や、戦後初の本格的な金融破綻の事例となった東京協和信用組合など2信組の事件を取材しました。

 その後、大阪社会部で大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失事件の株主代表訴訟などを取材し、02年に東京社会部に戻りました。その年の8月に、福島第1原発の蒸気乾燥器のひび割れ隠しが内部告発で発覚しました。告発したのはケイ・スガオカという日系2世の米ゼネラル・エレクトリック(GE)の技術者です。

 その時に、内部告発者保護で日本で最も実践が進んでいるのが、原子力業界だということを知りました。99年に原子炉等規制法の改正で、公益のための内部告…

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