テクノロジー

Q&Aで学ぶメタバースの基礎知識 幸田敏宏

 あちこちでメタバースという言葉を見かけるようになったが、どれだけ理解しているだろうか。おさらいしておこう。>>特集「メタバース&Web3.0のすごい世界」はこちら

Q1 「メタバース」っていったい何のこと?

 インターネット上で、利用者がアバター(自分を模したキャラクター)を使い、物理的な距離の制約を超えて人々と交流したり、企業のサービスを利用したりするなどして、現実を超える体験を楽しめる仮想空間のこと。フェイスブックがメタ・プラットフォームズに社名変更したことや、コロナ禍でオンライン需要が増えたことで2021年に注目度が高まった。

 メタバースは三つの要素を持つ。まずは3D(三次元)のコンピューターグラフィックスで作成された「仮想空間」であること。他者とリアルタイムにコミュニケーションが取れる「ソーシャル性」を持つこと。そしてユーザー同士の売買をはじめとした「経済圏」が形成されていることである。

 仮想空間では、過去や未来、深海や宇宙などの非現実的な場面を描いたり、空間や物の大きさを変えたりすることで、提供したいユーザー体験に合わせた最適な環境を作り出せる。文字や画像、動画の閲覧では得られない臨場感のある体験が提供でき、共通の興味や嗜好(しこう)を持って参加したユーザーが一体感を得られるようなコミュニティー形成に活用できる。

Q2 似たようなものに「セカンドライフ」があったけど

 07年に話題となった仮想空間セカンドライフは、確かにメタバースの三つの要素を持っていた。しかし、積極的に利用する「アクティブユーザー」の数は月間で200万人程度。一方、現在メタバースで多くのユーザーを集めている人気のオンラインゲーム「フォートナイト」は、月間1億人規模のユーザーが利用している。「ネットワーク効果」という言葉で知られているように、場やコミュニティーの価値は、利用者が増えるほど高まる。セカンドライフに比べ、現在のメタバースの価値は大きく向上している。

 また07年には存在しなかった、VR(仮想現実)ヘッドマウントディスプレーの汎用(はんよう)品の登場も見逃せない。技術進化により、ユーザーは高い没入感を得て、仮想空間の魅力をより強く感じることができる環境が整ったのである。

Q3 経済圏やビジネス利用はどう広がっているの

 メタバース上ではユーザー同士が既に売買を始めている。若者を中心に数億人のユーザーを抱える米オンラインゲームのロブロックスは、ユーザー同士が制作したゲームやアイテムを売買するマーケットを備えている。企業からユーザーへのデジタル商品の販売では、海外のアパレル業界が先行している。米衣料ブランドのラルフ・ローレンは、アバターに着せる「服」を販売している。

 ユーザーの増加に伴い、メタバース上の広告ビジネスも登場した。ウェブ広告のように、複数の仮想空間に広告枠を持ち、出稿を一括で受け付けるサービスも始まっている。それぞれの仮想空間のユーザーは近い興味や関心を持っているため、マスメディア広告に比べ高い広告効果が期待できる。

 ビジネスへの利用はメタバース上の取引に限定されない。米国のファストファッションブランドのフォーエバー21は、メタバースでアバター向けの服を買ったユーザーに、クーポンを渡して実店舗でも同じデザインの服を購入できるようにして、店舗へ誘導している。

Q4 日本ではどうなの。ゲーム以外での利用は

 広がっている。今年8月には、世界中から100万人以上が来場するメタバース上のイベント「バーチャルマーケット2022サマー」が開催された。ビームスなどのアパレル企業や大丸松坂屋百貨店などの小売企業だけでなく、SMBC日興証券やみずほ銀行などの金融機関も出店した。10代から20代前半の「Z世代」向けにブランドの浸透を図る取り組みだろう。Z世代は投資や金融に対する関心は低くはないが、実店舗に入って相談するとなると敷居が高い。アバターを介しコミュニケーションすれば、ハードルを下げる効果が期待できる。

 ユーザーは若者に限らない。ANAホールディングスは、昨年5月に仮想旅行を提供する新会社ANA NEOを設立。コロナ禍による移動制限を受け、将来実際に渡航するつもりのユーザーに、メタバース上で渡航先に関わる情報提供や商品販売を企画している。また、損害保険ジャパンはANA NEOと、メタバースにおける新たな保険商品開発やサービス開発を実証するため提携した。

Q5 企業内での利用は進んでいる?

 進んでいる。企業内の利用では、ユーザーが限定されているため高価だが没入感の高いVRヘッドマウントディスプレーを新入社員研修や社内交流に使うケースも増えている。メタバースの持つ仮想空間の臨場感やソーシャル性により、コミュニケーションの密度を上げるのが狙いだ。リモートワークを活用した今後の働き方において、メタバースはコミュニケーションを円滑にする武器になる。

 消費者向け活用はポテンシャルが高い一方、法整備の遅れやVRヘッドマウントディスプレーの保有者数の少なさなどの課題がある。コンシューマー向けの本格普及に先立ち、企業内の利用が進む。

Q6 主導しているのはメタ(旧フェイスブック)なの?

 メタは独自の仮想空間プラットフォーム「Horizon(ホライゾン)」シリーズを有し、人気のVRヘッドマウントディスプレー、メタ・クエストシリーズを販売している。しかし大量の会員を抱えているプラットフォームは他にも多数存在する。

 具体的には、ユーザー同士の交流が人気のVRChat(米VRChatが運営するソーシャルVRプラットフォーム)。オンラインゲームならロブロックス(米ロブロックス社提供)、フォートナイト(米エピック・ゲームズ社提供)などである。

 一方日本は現在、上述した海外企業ほど、多くのユーザー数を集めているメタバースは存在しない。 しかし、人数が多ければよいわけではなく、メタバースを使いユーザーにとって魅力的な体験を提供できるかどうかが重要である。

 メタバースプラットフォーム企業のクラスター(東京都品川区)や、同じくプラットフォーム開発や関連技術活用支援企業のシナモン(同品川区)が、既存の事業会社といかに連携していくかが、日本における今後のメタバースのビジネス活用の鍵になるだろう。

(幸田敏宏・野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員)


週刊エコノミスト2022年10月25日号掲載

Q&Aで学ぶメタバースの基礎知識=幸田敏宏

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