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メタバースで半導体需要アップ、設備投資競争が過熱 津村明宏

メタバースの実現に向けてデータセンターの増強が進んでいる Bloomberg
メタバースの実現に向けてデータセンターの増強が進んでいる Bloomberg

 メタバースの実現にはデータセンターや表示デバイスなどの高機能化が不可欠である。そのための半導体需要が増大している。>>特集「メタバース&Web3.0のすごい世界」はこちら

インテル、サムスン、エヌビディア 相次ぐ巨額投資

 半導体最大手の米インテルは「真のメタバースを実現するには現在の1000倍のコンピューティング能力が必要」との声明を出している。インターネット上の3D(三次元)仮想空間であるメタバースは、現在のところ一定の市場が形成されているのはゲーム分野のみで、今後の発展や利用にはまだ不透明な部分が多いのが実情だ。今はそうした問題の答えを世界中の企業が模索する期間であるともいえる。今後しばらくの間、テクノロジー業界における巨大な実験空間となるだろう。

 メタバース空間を使い勝手の良いものとし、サービスを普及・拡大していくには、クラウド(ネット上のサーバー)、エッジ(端末)を問わず、あらゆるデータが集まるデータセンターの高性能化や増設が不可欠で、大量の高性能プロセッサー(演算回路)やメモリーを消費し続けることになる。

 大量のデータセンターを保有・運営している米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック〈現在はメタ・プラットフォームズ〉、アマゾン、マイクロソフト)の設備投資額は、ここ10年で急増している。2010年時点で5社の設備投資額は104億ドルに過ぎなかったが、年々増え続け、21年には約13倍の1370億ドルに達した。このすべてをデータセンターの建設・整備に投じているとはいわないが、事業拡大やサービスを充実するため、サーバーを増設し、ロジック(論理演算回路)やメモリーの消費を年々増やしているのは明らかだ。

生産能力増強を急ぐ

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 こうした高性能プロセッサーの需要増に対し、ロジック半導体3強と呼ばれるインテル、韓国サムスン電子、台湾TSMCは、さらなる性能向上に向けて製造プロセスを継続的に微細化し、加えて生産能力を拡大するため、設備投資額を年々増やしている。10年前の11年に3社の設備投資額は合計で300億ドルに過ぎなかったが、19年には500億ドルを突破し、22年には900億ドルを超えて1000億ドルに迫る勢いだ。

 インテルは22年に230億ドルの設備投資を計画している。当初計画の280億ドルからは引き下げたが、独ザクセン・アンハルト州マクデブルクに新工場を建設すると発表した。投資額は170億ユーロ。欧州では今後10年間で総額800億ユーロを投資する考えで、ドイツ新工場もその一環だ。マクデブルクには工場2棟が建設される予定で、23年前半に建設を開始、27年から生産を開始する。米国でもアリゾナ州とオハイオ州に新工場の整備を進めており、投資額はいずれも200億ドル規模。ただ、この資金に関しては、先ごろ成立した、米国での半導体製造を支援する「CHIPS法」に基づく補助金をあてにしており、詳細は今後具体化する見込みだ。

 サムスン電子は、ロジック半導体とファウンドリー(生産受託)事業の強化に向けて、30年までに171兆ウォン(約17兆円)を投資する考えを表明している。21年11月には米国国内で2カ所目となるファウンドリー工場の新設を決定し、建設地をテキサス州テイラー市に決めた。22年に着工し、24年下期に本格稼働を目指す。ちなみに、第1工場はテキサス州オースティンにあり、ファウンドリー専用として月産10万枚の生産能力を持つ。

 微細化技術で先の2社をリードするTSMCは、21~23年の3年間で設備投資額に1000億ドルを充てることを公表しており、22年は400億~440億ドルの投資を計画している。先端分野では特に3ナノメートルと5ナノメートルプロセスの増強を中心に進め、レガシー(旧世代)分野では幅広い用途で22、28ナノメートルプロセスの需要が今後も伸びるとみて、台湾、中国・南京、そして日本の熊本で新工場の立ち上げなどを進めていく。建設に着手した熊本新工場は24年末までに生産を開始する予定。総投資額は約9800億円で、投資の約半分が経済産業省から補助されることになる。

 なお、生産設備を持たず委託生産(ファブレス)のロジック半導体メーカーで、CPU(中央演算処理装置)市場でインテルのライバルの米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、今のところメタバースに関連する言及は少ない。しかしサーバー用プロセッサー「EPYC」がメタ・プラットフォームズに採用されていることを明らかにしており、これが今後の収益を押し上げていく要素の一つになりそうだ。

 また、ファブレス企業の米エヌビディアも、メタバース市場で躍進が期待される半導体メーカーの1社だ。得意とするGPU(画像処理回路)は2D、3Dの画像生成に不可欠な回路であり、現実環境に近い没入感をメタバース空間内で再現しようとすればするほど、GPUが果たすべき役割は大きくなっていくと考えられる。メタバースアプリケーションを作成し、運用するためのプラットフォーム「エヌビディア・オムニバース」を19年から提供。まずは産業分野で応用先を開拓する取り組みを優先的に進めており、22年6月には独シーメンスと提携している。産業向けメタバースの構築、AI(人工知能)駆動のデジタルツインの利用拡大による産業オートメーションの高度化を目指していく。

ディスプレーも欠かせない

 メタバース空間の表示デバイスとして欠かせないのがディスプレーだ。スマートグラスやヘッドセットなどメタバースへの入り口となる機器には、シリコンウエハーをベースにしたマイクロ有機ELやマイクロLEDといった1インチ未満の小型パネルが搭載されており、今後の需要増が期待できる。

 マイクロ有機ELではソニーグループが高いシェアを誇り、その画質も高い評価を受けている。また、メタバース関連の需要見通しを受け、韓国のサムスンディスプレーとLGディスプレーが本格的に参入する意思を示しており、23年には量産化計画が具体化しそうだ。一方、マイクロLEDは新興企業が事業化に取り組んでおり、その中から中国のジェイドバードディスプレーが安徽省合肥、フランスのアレディアがグルノーブル近郊で量産工場の建設に着手している。また、英プレッシーセミコンダクターズはメタ・プラットフォームズが開発中のスマートグラスに対して独占供給契約を結ぶなど、事業化に向けた動きが加速している。

 このほか、メタバース環境での体験をさらにリアルなものに近づけるために、センサーの需要が伸びていくことも想定される。撮像素子のCMOSイメージセンサーはソニーが世界シェアの5割近くを握っており、メタバース市場の拡大でも恩恵を受けそうだ。

 また、膨大な電力を要するデータセンターにおける電力消費をできる限り抑制するため、電源周りに高効率なGaN(窒化ガリウム)パワーデバイスの採用が進む可能性がある。GaNパワーデバイスは現在、スマートフォンなどモバイル機器向けの急速充電器に採用が進んでいるが、今後はEV(電気自動車)の急速充電器やデータセンターのサーバー用電源などにも搭載が進むとみられる。この市場は米国のナビタスセミコンダクターやトランスフォーム、カナダのGaNシステムズといった新興企業がリードしており、相次いで株式を上場するなどして資金調達を図り、経営体制の強化に積極的に取り組んでいる。

(津村明宏・電子デバイス産業新聞特別編集委員)


週刊エコノミスト2022年10月25日号掲載

半導体 インテル、サムスン、エヌビディア 需要増大で巨額投資相次ぐ=津村明宏

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