教養・歴史書評

「相手の立場で考える」ことを軸にゲーム理論の肝を描写 評者・土居丈朗

『雷神と心が読めるヘンなタネ こどものためのゲーム理論』

著者 鎌田雄一郎(カリフォルニア大学バークレー校准教授)

河出書房新社 1793円

 本書の副題は、「こどものためのゲーム理論」である。こどもでも理解できるというだけでなく、大人が読んでも含蓄がある書といえる。

 ゲーム理論の解説書は近年増えているが、本書は、「相手の立場に立つ」ことをゲーム理論の考え方を使って自然にできるようになることに狙いがある。これこそ、大人にとってもためになるところである。

 滝沢啓一という小学6年生の男子を主人公に、五つの物語が展開されている。物語に没入すると、本書がゲーム理論の入門書であることを忘れさせる。本書の題名にあるように、雷神が啓一少年の前に現れて、心が読めるヘンなタネが出てくるという奇想天外なストーリーがとても面白い。挿絵や情景描写に細かく笑いも織り交ぜられている。一つひとつの物語の後には、雷神によるゲーム理論の解説が付いている。

 ゲーム理論を述べる際には、とかく自分の利得と相手の利得に焦点が集まりがちである。自分と相手の双方にとって利得が多い状態は、両者が結託すれば実現するが、両者が非協力的にふるまうと双方にとって利得が少ない状態で均衡することになる。確かに、ゲーム理論にとって利得の分析は欠かせない。しかし、それは同時に相手の立場に立って考えるとどのような選択肢を選ぶことになるか、ということにも思いを馳(は)せていることに気が付かされる。これを明示的に解説しているところに、本書の一つの特徴がある。こどもにいきなり「利得」といっても理解は容易でないところだが、相手の立場に立って考える、というと日常生活での一場面として容易に理解できる。その着想には感心させられる。

 さらに、話は進んで、ゲーム理論でも取り扱われるコミットメントについても、さりげないストーリーの中でその意味を学ばせてくれる。一つの行動を決め打ちしておくというコミットメントを自らがすることで、相手の行動を誘導することができる。もちろん、それがうまくいく秘訣(ひけつ)にも言及されていて、「相手がそのコミットメントをちゃんと見る」ということを知っている必要があるという点だ。本書では、こうした「知る」ことが自分と相手との間で無限に連鎖する状態を、小学生の日常を物語として表している。コミットメントは「相手の立場に立つ」ことを必要とすることが、よく理解できる。

 加えて、自分と相手が自然に選びそうな選択肢のことを、フォーカルポイントと呼ぶことも平易に解説していて、ゲーム理論の肝を見事に描写している。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


 かまだ・ゆういちろう 1985年神奈川県生まれ。東京大学卒業後、ハーバード大学経済学博士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経てテニュア(終身在職権)を取得し、現職。


週刊エコノミスト2022年11月1日号掲載

『雷神と心が読めるヘンなタネ こどものためのゲーム理論』 評者・土居丈朗

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