パパイアを普通の野菜に やぎぬま農園代表、柳沼正一
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柳沼正一 やぎぬま農園代表/55
政府開発援助(ODA)のコンサルタントが、熱帯で育つパパイアを茨城県で露地栽培し始めて10年超。少しずつ生産者も増え、健康食材として今、注目も集める。パパイアの可能性に魅了された人生とは──。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)>>これまでの「ロングインタビュー 情熱人」はこちら
── 露地栽培の北限とされる茨城県の中部・那珂市でパパイア作りを始めて12年目に入りました。今(取材は10月中旬)、収穫の時期を迎えていますね。
柳沼 今日も収穫しました。強い霜が来たら全部だめになってしまうんですが、柔らかい霜の場合は、2、3回当たっても平気なんです。年によって違うんですが、今年は11月末ぐらいまでは大丈夫だと思います。収穫は週のうち3日ぐらいですね。これからだんだん出荷が増えて忙しくなれば、収穫は毎日になります。
── 今年の出来はどうだったんですか。
柳沼 普通ですね。悪くもなく、特に良くもなく。今年は猛暑が続いたけれど、パパイアは暑さには強いんです。今年良かったのは台風にあまりやられなかったこと。最近は毎年1回ぐらいは台風にやられちゃうんですよ。今年はまだ葉っぱがきれいに付いているので、今のところ大丈夫です。
── パパイアという日本では珍しい農産物の栽培に取り組んでいますが、生産者も徐々に増えているそうですね。
柳沼 生産者にパパイアの認知度が広がっているのは確かです。2013年4月に「那珂パパイヤ普及推進協議会」(現在は「サンパパイヤ普及推進協議会」)を作り、会員は全国でどんどん増えて今は230人ぐらい。そのうち、本格的にパパイア生産で生計を立てようとしている人は60人ぐらいいます。ホームセンターでも売られている家庭菜園用のパパイアの苗も、年間3万本から5万本と伸びていますよ。
東南アジアなど広く熱帯で栽培されているパパイア。特に、熟す前に収穫した青パパイアは、消化や代謝を向上させて免疫力を高める働きがある酵素を多く含み、「酵素の王様」とも呼ばれる。健康食材として今、日本でも注目度が高まっているが、そのパパイア生産に日本でいち早く取り組んでいたのが柳沼さんだ。日常の食卓でも広く使ってもらおうと、料理法の普及などにも力を入れている。
きんぴら、卵焼き、酢の物……
── パパイアをどうやって食べればいいのか、分からない消費者も少なくありません。
柳沼 皮も食べられるけど、苦いからピーラーで皮をむいて、スライスしたり千切りにしたり、生でもいいし煮物にしてもいいし炒めてもいい。いろんな食べ方ができるんですよ。
── パパイアを食材にした「松花堂弁当」(懐石料理の弁当)も作ったんですね。
柳沼 こういうふうに弁当で食べてもらう形にしたのは、今回が初めてです。全部パパイアを使った料理です。パパイアと肉は非常に相性が良くて、肉もパパイアも軟らかくおいしくなるので、豚の三枚肉を使って一緒に煮ました。肉や魚はパパイアによってたんぱく質が分解され、アミノ酸になります。アミノ酸というのはうまみ成分。肉や魚のたんぱく質がうまみに変わっちゃう。それでおいしさがさらにアップするんです。
弁当にはパパイアのきんぴらもあります。タイのソムタムという世界的に有名なパパイアのサラダは、本来はもっと辛いんですが、日本人向けにそれほど辛くはしていません。他にも、パパイアを中に入れた卵焼きや、エビと一緒にスライスしたパパイアの酢の物、パパイア入りの肉巻き、そしてパパイア入りの炊き込みご飯とパパイア尽くしです。
── 作る人は増えましたが、売り方にはまだまだ課題がありそうですね。
柳沼 もともと難しいテーマなんです。野菜というジャンルは、せいぜい一つ200円前後が相場。その価格が消費者に染み渡っている。ただ、パパイアは1個500円、600円という野菜ですから、なかなか手が出ない。そこをどうするか。消費者もパパイアの良さを分かってくれれば、どんどんリピーターになってくれるんですが……。
イベントや広告宣伝など、PRになることは一通り全部やりました。それはいいね、という反応…
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週刊エコノミスト
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