経済・企業

最先端半導体の国産化 経産省に三つの策 服部毅

ベルギーのimecでは次世代半導体の技術開発が進んでいる(Bloomberg)
ベルギーのimecでは次世代半導体の技術開発が進んでいる(Bloomberg)

 経済産業省はTSMCの熊本工場誘致に成功したが、この工場は旧世代の28ナノメートルプロセスである。日本半導体再興には最先端技術の獲得が必須であるとして、海外からの技術導入や国策研究所・企業設立の動きが進んでいる。>>特集「半導体 反転の号」はこちら(11月28日公開)

25年以降の量産へのシナリオ

 日本政府の半導体復興戦略は自民党半導体戦略推進議員連盟会長の甘利明氏のシナリオ通りに進行しているように見える。

半導体政策の鍵を握る甘利明氏
半導体政策の鍵を握る甘利明氏

 甘利氏は、昨年12月に東京で開催された半導体製造装置材料展示会の基調講演で、「日本の将来にとっては、2ナノメートル超の最先端技術の獲得が必須であり、米国から半導体企業を誘致するために、すでに米国勢と協議を始めている」と語った。そして「このため、今後10年間に10兆円規模の半導体投資が必要だ」と話を結んだ。これを受けるかたちで、議連は5月に「10年で官民合わせて10兆円規模の追加投資を行うべく本年度補正予算をはじめ機動的に支援を拡充していくべきだ」と決議した。

 さらに岸田文雄首相は10月28日の記者会見で、次世代半導体の共同開発など半導体関連に2022年度第2次補正予算で1.3兆円を投じると表明し、11月8日に閣議了解した。内訳は、日米が連携する次世代半導体研究拠点の整備費用を含むポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業に4850億円、先端半導体国内生産拠点の支援に4500億円、半導体基板などの素材や部品の生産能力増強支援にも3686億円を充てるという。

 21年度補正予算ですでに6170億円を獲得し、外資の国内誘致を含めた3カ所の特定半導体生産拠点(TSMC熊本工場、キオクシア/米ウエスタンデジタル四日市工場、米マイクロンテクノロジー広島工場)への補助金として使い果たしたが、これを合わせれば、先進半導体製造拠点支援の補助金だけでも1兆円を超える。

 日本政府は最先端半導体技術をどのようにして入手し25年以降に量産へもっていこうとしているのであろうか。これには三つのシナリオがありそうである。

プランA 米国勢との共同開発

 5月の岸田首相とバイデン米大統領との首脳会談で「次世代半導体技術の共同開発」が決まった。先行する米国の技術を有償で入手するとともに技術指導を受けるようだ。米国側の先端半導体技術の受け皿として、日本の産業技術総合研究所や理化学研究所など四つの国立研究所や東京大学など四つの大学を核とする技術研究組合最先端半導体技術センターが年内に設立される。

 また、萩生田光一経済産業相(当時)は、両首脳会談に先立つ5月3日、米国ニューヨーク州の米IBMの半導体研究開発センターを視察。最先端半導体の開発・製造に必須の蘭ASML製EUV (波長13.5ナノメートルの極端紫外線)露光装置を見学し、装置の利用を含めてIBMの協力を取り付けた。

 研究組合とは別に、将来の先端半導体製造を見据えて開発を行う「Rapidus(ラピダス)」も経産省の肝いりで誕生した。トヨタ自動車やソニーグループなど8社が出資し、社長には元ウエスタンデジタルジャパン社長の小池淳義氏が就任した。成否についてはさまざまな意見が飛び交っている。

プランB 欧州勢との技術提携

 岸田バイデン両首脳肝いりのプランAが本命だとしたら、プランBもひそかに検討されているようだ。それはベルギーの先端半導体技術研究機関であるimec(アイメック)と技術提携し、さらには研究開発拠点を日本のつくばに誘致するというもの。

 imecは、米インテル、韓国サムスン電子、台湾TSMCなど世界の先端企業が出資し、共同で1ナノメートル世代の半導体開発に取り組んでいる。日本からは、キオクシアやソニーグループ、大手半導体製造装置・材料メーカーも参画。このため、imecはIBMよりは実用性の高い技術開発に取り組んでいる。IBMのEUV露光装置が試作研究用の古いモデルであるのに対して、imecは最新型を所有する。さらにASMLと共同で2ナノメートル超に必須となる次世代モデルを開発している。

 imecが11月7日に東京で開催した技術講演会で、経産省商務情報政策局の野原諭局長が基調講演を行い、「EUV露光は次世代半導体の開発や製造に不可欠であることが分かったので、EUV技術で世界の先端を走るimecおよびASMLと技術提携することは日本の半導体復興にとって必須であり、日欧がウィンウィンになるよう交渉中である」と述べた。

プランC TSMC最先端工場誘致

 最後のプランCは願望レベルだが、TSMCの最先端工場を誘致するもの。経産省は20年前後に、米インテル、TSMCと最先端半導体工場誘致の交渉を始めたが、ともに断られ出鼻をくじかれた。その後、紆余(うよ)曲折の末、やっと補助金付きでつくばにTSMCの後工程の研究所を誘致した。さらに粘って熊本に10年古い28ナノメートルプロセスを用いたファブの誘致に成功した。しかし、やはり初心に帰って、再び最先端ファブの誘致を行っていると複数の官界関係者は話す。ただしTSMCは熊本工場の計画通りの立ち上げに注力しており、今のところその先の誘致には同意していないという。

 TSMCの経営陣は、かねがね、新工場を建設するかは顧客ニーズや経済コスト次第と言い続けているが、日本はいずれの条件も満たしてはいない。TSMCが日本に10ナノメートル未満の先端ファブを建設するモチベーションはないが、熊本工場同様、すべてはカネ次第になってきており、1兆円を超える補助金や画期的な税制優遇策を示せれば話は変わってくるだろう。

 しかし、そこまでして日本に最先端工場を誘致したり自前の工場を持って何を作り、誰がどこに使うのかは未知数のままである。これらの最先端半導体製造計画が果たして国家および経済安保のためになるのか、本当に日の丸半導体は復権できるのかなどの議論が置き去りにされそうである。

(服部毅、服部コンサルティング・インターナショナル代表)

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