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経済・企業 半導体 反転の号砲

半導体株は戻り基調、EV向け成長率は上方修正 村田晋一郎(編集部)

自動車用半導体の不足は長期化する可能性がある Bloomberg
自動車用半導体の不足は長期化する可能性がある Bloomberg

 金利の先高観が一服する中、「長期的な成長シナリオは不変」として半導体株を買い戻す動きが出始めた。>>特集「半導体 反転の号砲」はこちら

DX、GX向け半導体の需要は不変

 半導体市場はまだら模様が続いている。新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に巣ごもり需要が急拡大したパソコンやスマートフォン向けの半導体は、特需の一巡で、調整が続く一方、企業や政府のDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)に関わる半導体は底堅い展開が続いている。その中でも、半導体不足に苦しんでいるのが自動車業界だ。

 トヨタ自動車は2023年3月期上期決算の発表において、半導体調達のリスクがあるとして、年間の生産台数の見通しを期初の970万台から920万台に引き下げた。トヨタ調達本部長の熊倉和生氏は会見で「半導体不足の最悪期は脱した」と説明したものの、自動車には1台当たり1000個以上の半導体が使用されており、その中で特定の半導体が一つでも不足すると自動車はつくれない。こうした半導体の調達リスクを考慮し、トヨタは、生産台数の見通しを下方修正した。

 特に不足しているのは、ガソリン車やハイブリッド車(HV)に使われるような回路線幅の太い「レガシー半導体」だ。半導体各社は、最先端の半導体には関心があるが、旧世代の半導体への投資には後ろ向きだ。ただ、先端に近い領域でも、設備投資が追い付いていない半導体は依然需給が逼迫(ひっぱく)しているという。「当面この状況は続くと見ている」と熊倉氏は語った。

 この半導体不足はいつまで続くか。半導体商社コアスタッフ社長の戸澤正紀氏によると、需要と供給のパターンがそれぞれ二つあり、その組み合わせに応じて四つのシナリオが考えられるという。

 需要については、いつまで現在の需要が継続するか。需要が22年末から減退するか、23年に入ってから減退するかの2通りのパターンを見ている。また、供給面では、コロナ禍で半導体不足が深刻化した際に投資された新設工場の稼働が24年に始まる。この量産効果が出るか否かで、供給についても2通りのパターンを見ている。これらを組み合わせた四つのシナリオでは、需要がさほど下がらず供給も上がらない場合は、半導体不足は長期間継続する。一方で、需要が減退し、逆に供給が大きく回復すると供給過剰が起こるという(表1)

自動車向け不足は長期化

 自動車業界はどれが当てはまるのか。世界的にガソリン車からEV(電気自動車)へのシフトが進めば、「成熟プロセスを用いたレガシー半導体は将来的には先細りとなる」との見方からこの分野への追加投資が行われない。一方で、EV化に伴い、自動運転を実現する最先端の半導体、モーターを動かすパワー半導体や、自動運転化に伴うセンサーなどの需要は飛躍的に増える。EVが使用する半導体は「金額ベースでガソリン車の3倍」(OMDIAの南川明・シニアコンサルティングディレクター)。そのため、自動車に関しては、「不足が長期化する」シナリオ①になる可能性が少なくない。

 世界半導体市場統計(WSTS)は8月、22年の世界の半導体市場の成長率を6月の当初予想の16.3%から13.9%に、23年は当初予想5.1%を修正予想では4.6%に下方修正した。これを反映して、米国の代表的な半導体株30銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX)や半導体関連株も総じてさえない展開が続いていた。

 ただし、前述のように半導体のアプリケーション(応用先)や企業の規模、展開する市場によって、状況は個々に異なる。大きく下方修正したのは、最先端のCPU(中央演算処理装置)やメモリーの分野で、これらは最先端の民生機器に用いられるデバイスが多い。コロナ特需一巡で、需要も減退している。最も活発に設備投資が行われる領域でもあり、コロナ禍発生後の生産能力増強の効果が出始めて、供給過多となっており、市場成長の見込みが低くなっている。一方、WSTSの予測では、自動車で使われるパワー半導体などのアナログ半導体やセンサーなどはむしろ上方修正されているのだ(表2)

金利先高観一服も支援

 こうした中、株式市場で半導体関連株は、コロナ特需一巡などのマイナス要因をある程度、織り込み、戻り基調にある。11月10日に発表された10月の米消費者物価(CPI)の上昇率が、市場予想を下回り、米金利の先高観が一服したことも支援材料だ。代表的な「成長株」である半導体は、今年に入ってからの米金利の上昇局面で、業績の実態以上に売り込まれていた側面がある。

 もちろん、半導体市場を見通すうえでは、今なお続くウクライナ紛争や米中対立、インフレ加速、コロナ感染再拡大などのさまざまな懸念材料はある。しかし、株式市場では、「半導体の長期的な成長シナリオは不変」として、来年後半の半導体市況の回復を先取りし始めたようだ。

(村田晋一郎・編集部)


週刊エコノミスト2022年11月29日号掲載

半導体 反転の号砲 DX、GX向け需要は不変 市況底入れを織り込む株式市場=村田晋一郎

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