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教養・歴史書評

プーチン支持率の高さをロシア思想の「保守主義」と「ユーラシア主義」から解き明かす 評者・高橋克秀

『プーチン戦争の論理』

著者 下斗米伸夫(政治学者)

集英社インターナショナル新書 946円

 ロシアのプーチン大統領が始めたウクライナ戦争は全人類を不幸にしている。プーチン氏の真意については、にわか仕込みの専門家による解説が流布しているが眉唾物も多い。その中で最も信頼できる著者による待望の書が現れた。著者はソ連・ロシア政治研究の泰斗で東西冷戦史にも詳しく、プーチン氏本人とも面識がある。

 プーチン氏が現実に行っている行為についてはまったく弁護の余地はない。しかし、プーチン氏あるいはロシアの論理を知っておくことは、戦後処理とプーチン後の国際秩序を構築するうえで決定的に重要だ。本書では冷戦終結後のNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大がプーチン氏の西側に対する猜疑(さいぎ)心を強め、安全保障上の恐怖感が彼独自の法理論と世界観に引火して「特別軍事作戦」に至る過程が詳述される。

 1991年にソ連が崩壊したのち、ロシア、ウクライナ、ベラルーシが主導してカザフスタンなどを含むCIS(独立国家共同体)が成立した。ロシアはCISを「ポスト・ソビエト空間の再統合」と位置付けたが、ウクライナはロシアとの円満な協議離婚と解釈した。こうした当初の思惑の違いは米国の内政と共振し、両者の溝は急速に深まっていく。

 分岐点は再選を目指す米国のクリントン大統領が、国内の東欧系移民の票を目当てにNATO拡大を明確にした96年であるという。背後にはロシア弱体化を目指す米国のネオコン(新保守主義)勢力があり、2008年以降ウクライナはNATO加盟候補国となった。04年のオレンジ革命と14年のマイダン革命を経てウクライナは親欧米派となり、対立は危険水域に入った。

 今回の戦争中もロシア国内でプーチン氏の支持率は高い。それはプーチン氏が「保守主義」と「ユーラシア主義」というロシア思想の最大公約数を体現しているからだという。プーチン氏の場合はロシア正教の中でも古層の保守とされる「古儀式派」の影響を受けている。17世紀にウクライナなどの親カトリック勢力との和解を拒否した異端のグループである。ユーラシア主義とは、ロシア革命後に生まれた民族主義的な思想で非ヨーロッパ・非カトリックを特徴とし、広大なユーラシア大陸を独自の文明圏・生存圏として主張する。

 ソ連崩壊後のロシアでは、市場経済化により途方もない格差社会が生まれ、深刻なアイデンティティー危機をもたらした。その間隙(かんげき)を埋めたのがロシア思想の2大潮流の担い手としてのプーチン氏だった。

(高橋克秀・国学院大学教授)


 しもとまい・のぶお 1948年生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在、法政大学名誉教授。神奈川大学特別招聘教授。専門はロシア・CIS政治史。著書に『プーチンはアジアをめざす』など多数。


週刊エコノミスト2022年12月6日号掲載

『プーチン戦争の論理』 評者・高橋克秀

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