富める国と貧しい国が生まれた理由を人類史に沿って解説 評者・原田泰
『格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか』
著者 オデッド・ガロー(ブラウン大学経済学教授) 監訳者 柴田裕之、訳者 森内薫
NHK出版 2530円
格差の起源というと、国内の格差について考えるだろうが、豊かな国と貧しい国の格差はなぜ生まれたかが本書の主題である。30万年前に現生人類がアフリカに出現して以来、人類の生活水準はかろうじて生きていける程度で、それは数世紀前までほとんど変わらなかった。
マルサスの1798年の予言によれば、人類の生活水準が上昇すれば、人口が増加し、収穫逓減法則によって1人当たりの生産物が低下し、その後の生活水準は上昇しないという。しかし、マルサスの過去についての説明は正しかったが、当時、18世紀後半に起きていたことの説明と未来についての予言はまったくの誤りだった。人類の生活水準は飛躍的な上昇を遂げたからだ。現在の貧しい国とは、人類30万年の法則から逃れることのできなかった国である。
では、なぜ豊かな国が生まれたのか。人類は、アフリカからヨーロッパ、アジアに進出し、新しい狩猟採集の場所を確保した。しかし、人口が増え、さらに新しい狩猟採集の場所を求めて移動した。狩りの効率を高める弓や槍(やり)が発明されたが、人口の増加は続き、生活水準が上がることはなかった。人類が農耕を開始しても、人口は増え続け、1人当たりの生産物は増大しなかった。
しかし、人口規模の拡大と都市化が、技術の進歩を加速する。グーテンベルクの印刷技術も、それを求める人がいなければ普及しない。都市と人口規模は印刷技術を支え、印刷技術は情報を普及させた。
工業化は、複雑な機械操作の必要性を高め、教育需要を拡大した。教育の普及は、さらに技術の進歩をもたらした。人々は、子どもへの教育投資の必要性を理解し、その費用を賄うために、子どもの数を抑えるようになった。これで人類はマルサスの罠(わな)から脱却できた。生活水準の上昇が、すぐさま人口の増加とはならなくなったからだ。
しかし、現在でも貧しい国は多い。本書は、その理由を制度、文化、地理、人間の多様性から説明する。国を発展させない制度ができる理由は、一部のエリートが政治や経済の権力を握ると、自身の特権と既存の格差を維持するために、進歩の波にあらがうからだという。
ただし、本書は、著者が力説するほど独創的な人類発展の統一理論とは思えない。説得力のある部分は、他者の分析の紹介であり、独自の部分は説得力に欠けると私は思った。しかし、人類の生活水準の格差について、見事な説明をしていることは間違いない。
(原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授)
Oded Galor ルーヴァン・カトリック大学およびポズナン経済大学より名誉博士号を授与される。『経済成長ジャーナル』編集長。人類史と共に格差を考察する「統一成長理論」の創始者として知られる。
2022年12月13日号掲載
『格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか』 評者・原田泰