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週刊エコノミスト Online 書評

資本主義の多様な変遷を各分野の論客が検証 評者・服部茂幸

『制度と進化の政治経済学 調整の重層性と多様性』

編著者 磯谷明徳(下関市立大学経済学部特命教授) 植村博恭(横浜国立大学名誉教授)

日本経済評論社 7810円

 本書はレギュラシオン学派(制度・構造と、その結び付きなどが、特定の時代や国の資本主義の調整様式を作り出すと考える学派)のフレームワークに基づき、資本主義の進化を論じるものである。字数の制約のため以下では評者が特に関心深かったところを取り上げる。

 けれども、1990年代以降は新自由主義の影響が強まっている。第9章の藤田菜々子氏の論文では、シュトレークが、「現在の危機を長期にわたる発展経過の中間段階だと考えるならば、資本主義国のあいだに見られる制度的、経済的な違いよりも、むしろその並行性や相互作用の方がはるかに大きい」「問題は、私たちがその〔資本主義の〕解体を眼前にしながら、後継者の到来を目にしていないこと」と論じていることを取り上げる。その上で、藤田氏は北欧資本主義も、グローバル化の中で福祉国家を再編してきたために、今では北欧諸国の内部でも少なくない多様性が見られると論じている。

 第10章の原田裕治氏の論文では、先進国の制度の多様性がどのように変容しているかを解明する。結果は、先進国では一様に、グローバル化や市場の自由化が進んだ。けれども、社会保障への公的支出、労働者市場政策、労働者保護・支援については、各国の独自性は大きく、2000年代になっても、明確に異なるクラスターが存在するというものである。同じグローバル化の波にさらされても、各国は同じようには反応しない。だから、各国の制度は同じにはならないのである。これはシュトレークに対する一つの回答となっている。

 このことは20年以降のパンデミック危機でも同じである。終章の原田裕治・池田毅・西洋各氏の論文では、公衆衛生、経済、自由のいずれを優先するかが、経済的・社会的な結果の違いを生み出したと論じている。全てが駄目なのは、ヨーロッパ諸国に多い。このことから、彼らはヨーロッパ型の調整には問題があるのではないかと言う(ただしヨーロッパの制度は一つではない)。

 結果として経済を犠牲にし、公衆衛生と自由を守ったのが北欧と日本である。しかし、北欧は政府の信頼度が高い。反対に政府に責任をとることを強く求めるが、信頼度が低いのが日本である。彼らは日本の政策がゆるいのは政府が信頼されていないためではないかと言う。

 しかし、東アジアは全体的にパンデミックの被害が小さかった。日本の被害が小さいのも政策の結果ではないだろう。

(服部茂幸・同志社大学教授)


 いそがい・あきのり 制度経済学、進化経済学が専門。著書に『制度経済学のフロンティア』など。

 うえむら・ひろやす 制度分析、マクロ経済分析が専門。著書に『新版社会経済システムの制度分析』など。


週刊エコノミスト2022年12月20日号掲載

『制度と進化の政治経済学 調整の重層性と多様性』 評者・服部茂幸

多様に進化する資本主義 歴史的変遷を各論客が検証

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