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教養・歴史 書評

中国で“剰男”“剰女”が生み出される事情を解読 菱田雅晴

 日本をはじめ先進国で未婚が広がっているが、中国も例外ではない。日本では未婚男性をかつて朝鮮語由来の「チョンガー」と呼んでいたが、もはや昭和世代にしか通じない。中国でも同様のニュアンスで“光棍儿”と称していたが、最近では“剰男”、さらに未婚女性を“剰女” と言う。「剰」は「余り」を意味している。

 中国におけるこうした未婚情況を孫煒紅著『“剰男”“剰女” 適婚人口的初婚風険』(中国社会科学文献出版社、2022年)が解読している。中国国家統計局によれば、21年末時点の総人口14億1260万人のうち、女性6億8949万人に対し、男性7億2311万人と3362万人も多い。

 女性100人に対する男性比率として105±2人が自然状態とされるが、国家計画出産委員会によれば、男女比は118だという。出生時の男女比も111.3と依然高水準を維持しており、結婚適齢期(20~40歳)では108.9という。

 こうした人口動態のアンバランスな男女比が“剰男”を生み出すマクロ的な構造要因であるが、本書が注目するのは個人の配偶者選択におけるミクロレベルの意思決定である。孫は婚姻に際しての男女双方の「需給」に注目し、婚姻市場への参入としての初婚年齢の推移をたどっているが、年齢、所得、学歴、職業、居住地域、親世代の情況などによる差異が著しいという。ことに、《嫁高娶低》という傾向は注目される。つまり、結婚相手として女性が社会的階層の上位者を求めるのに対し、男性は下位者を娶(めと)ることを望むという。女性にとって、自分より社会的階層が上位の男性は人数が限られ、奪い合いの状態になるのである。

 中国女性はマクロ的には希少な存在ではあるにせよ、結婚相手はよりどりみどりの選び放題ではないのだ。中国でも女性の社会進出が進み、学歴や経済力の向上とともに、男性に要求する水準も上がっている。特に大都市に住む高学歴の職業女性の配偶者選択は容易ではない。ここから30歳前後の未婚女性を中心に“剰女”が生まれる。一方、男性にとっても、結婚の必須条件とされる住宅・クルマ・預貯金は極めて高いハードルである。結婚観のミスマッチが“剰男”“剰女”を大量に生み出している。

(菱田雅晴・法政大学名誉教授)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2022年12月27日・2023年1月3日合併号掲載

海外出版事情 中国 女もつらいよ 中国の未婚事情=菱田雅晴

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