半導体は在庫調整明けの2024年以降に“経済安保”特需 津村明宏
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主要国が半導体の国産化にかじを切る。投資の規模は向こう10年で20兆円を超える。製造装置や部材に強い日本にも巨大な商機だ。
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マクロ経済の減速と在庫調整局面によって、2023年の世界半導体市場は4年ぶりにマイナスとなる公算が大きい。半導体メーカーが組織する世界半導体市場統計(WSTS)はマイナス4.1%、調査会社ガートナーはマイナス3.6%と予測しており、この調整局面からいつ抜け出せるのかが当面の注目点となる。これに伴って能力増強の手控え、特に半導体市場の4割を占めるメモリー分野への投資減額が見込まれるため、23年の半導体前工程装置(WFE)の需要は少なくとも前年比15~20%減少するといわれており、30%以上減るのではとの見方すらある。
だが、24年以降に目を転じれば、半導体市場は再び成長軌道へ回復し、かつてない規模の増産投資によってWFE市場がまた拡大する可能性がある。その原動力となるのが、経済安全保障の名のもとに各国が進める「半導体の自国内・域内調達の安定化に向けた生産シェアの拡大政策」だ。
アジア偏在を解消
先端半導体の生産がアジアに偏在していることを解消するため、米国は12%まで下がった生産シェアの向上に向けてCHIPS法を制定し、総額約500億ドル(約6兆7500億円)を投じて国内への生産回帰を図る。また、EU(欧州連合)も欧州半導体法を制定して官民で総額430億ユーロ(約6兆2000億円)の補助金を用意し、生産シェアを現在の10%から30年までに20%へ倍増させる計画を立てた。
加えて、まだ半導体を生産していないインドが国産化を目標に掲げた。21年12月に電子産業(半導体とディスプレー)の誘致・育成を図る包括的な政策プログラムを発表。予算総額は7600億ルピー(約1.1兆円)と、これまでで最大規模の産業振興策である。専門家で「インド半導体ミッション」を結成し、持続可能なエコシステムの構築を図り、5年間で年間売上高150億ルピー超の企業20社以上を支援するといった政策を立案した。
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こうした流れのなかで浮上している欧米とインドの半導体工場の新増設計画を表1にまとめた。
これらすべてとはいわないまでも、多くが補助金の活用を前提にしており、今後10年を視野に入れた生産能力の確保に向けた案件も少なくない。
増産計画の一方で、米国は10月に中国に対する半導体規制を強化し、最先端のロジック(論理演算機能)やメモリー(記憶装置)の量産に不可欠な装置や技術の輸出を禁じた。あらゆる産業の競争力強化につながる半導体に関し、中国の進化を少しでも遅らせるのと並行して、一連の政策で自らは先端技術の開発・量産化を加速しようとする米国の思惑も透けて見える。
インテルに補助金の恩恵
補助金の恩恵を最も大きく受けるとみられるのが、米インテルだ。アリゾナ州で300億ドル(約4兆円)、オハイオ州で200億ドル(約2.6兆円)の新工場の整備を進めている。オハイオ州では最大8工場を整備することも計画しており、同州での投資額は今後10年間で1000億ドル(約13.2兆円)に達する可能性もあるという。
欧州では、今後10年間で800億ユーロ(約11.5兆円)を投資する。ドイツ新工場の建設に加え、アイルランドの工場にも追加投資を行うほか、…
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週刊エコノミスト
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