ミシェル・オバマ氏の新作が再びベストセラーに 冷泉彰彦
ミシェル・オバマ氏はアフリカ系初のファーストレディーとして、バラク・オバマ大統領を支え、その夫が退任した後も国民的人気を維持している。とりわけ2018年11月に刊行した自伝“Becoming”(邦題は『マイ・ストーリー』)は世界各国語に訳されており、『ニューヨーク・タイムズ』の報道では販売部数は総計1700万部に達したという。同書はNetflixによってドキュメンタリー化もされた。
そのオバマ氏の新作“The Light We Carry: Overcoming in Uncertain Times”(「私達の掲げる光 不確実な時代を乗り越える」)が出版された。11月15日にペンギン系列のクラウン・パブリッシングから発売された本書は、1カ月にわたってアマゾンでは書籍全体の販売数で1位となるなど、前作同様にベストセラー化している。
オバマ氏の言う「不確実な時代」という言葉には、さまざまな意味が込められており、新型コロナウイルスによるパンデミックもそうであるし、ポピュリズムによる民主主義の動揺も、また人々の間に将来への不安感情が広まっていることも含むとしている。そうした「不確実さ」というのは、オバマ氏によれば「アメリカという社会が未完成であることの証拠」であり、それゆえに「解決策が誰かから与えられる」ことはないと述べている。
そうではなくて、自分たち一人一人は「それぞれの個人が放つ光」を掲げ、前を向いて進むしかないのだという。オバマ氏によれば、ほとんど初めてのアフリカ系女子学生としてプリンストン大という白人男性中心のコミュニティーに飛び込んだ時も、初のアフリカ系の夫婦としてホワイトハウスに乗り込んだときにも、そこには「不確実性」しかなく、その状況を乗り越えるのは自分にしかない「光」を掲げるしかなかったとしている。
その「光」とは、家族や生い立ちを通じて獲得した自画像だとしながら、そのような個人のエネルギーを集めることで、社会全体が前進できると説く。つまり、前作の自伝で展開されていたオバマ氏のポジティブなエネルギーの源泉が解き明かされるというわけで、一種の私的な自己啓発の書ともいえる。
(冷泉彰彦・在米作家)
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週刊エコノミスト2023年1月17日号掲載
海外出版事情 アメリカ ミシェル・オバマ氏の新作が話題に=冷泉彰彦