経済・企業SDGs最前線

SDGs最前線⑦山梨中央銀行、SDGs目標連動の投融資で地元企業の環境対応などを支援――3年間で2500億円以上目指す

山梨中央銀行の古屋賀章専務
山梨中央銀行の古屋賀章専務

 国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。

 第7回目は、山梨中央銀行を取り上げる。同行は中期経営計画「トランスキューブ2025」で、持続可能な地域社会の実現に向けたサステナブルファイナンスの投融資額を今後3年間で2500億円以上とする目標を設定。融資だけでなく、地元企業にSDGs戦略のコンサルティングなどでも支える独自のスタイルで達成を目指す。

【山梨中央銀行が実践するSDGsの目標】・目標7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)・目標8(働きがいも経済成長も)・目標11(住み続けられるまちづくりを)・目標13(気候変動に具体的な対策を)

地元企業にSDGs目標の達成で金利優遇するサステナビリティ・ローン

山梨中央銀行の本店
山梨中央銀行の本店

 山梨中央銀行は昨年3月、顧客企業が定めたSDGsやESGの目標の達成状況に応じて金利などを優遇する「山梨中銀サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」の第1号融資を実行した。地元山梨県の韮崎市にある電子部品製造の旭陽電気に対して5億円を融資した。

 旭陽電気は半導体映像装置の電子部品などを製造し、韮崎市や甲府市などに工場を持つ。山梨中銀の助言も受けて、30年度の二酸化炭素(CO2)排出量を20年度比40%削減する目標を設定。国が定めた中間目標を上回る高い目標を受けて、同行はSLLを実施することにした。

 「地方銀行はお金を通して地元企業をサポートしてきたが、これからは『ただ融資して終わり』ではなく、顧客企業を持続可能な存在にしていくために伴走することが仕事になる」。山梨中銀の古屋賀章専務は力を込める。かつては地元企業への融資が仕事の大半を占めていたが、時代の変容を受けて、SDGsを含めた環境問題への対応や生産性向上など地銀の役割は拡大しているというわけだ。「メーンバンクとして多くの地元企業と密接なつながりを持つ地銀だからこそできる仕事」(古屋氏)ともいえるだろう。

旭陽電気の製品の検査業務の様子
旭陽電気の製品の検査業務の様子

営業店の法人担当とコンサル担当の2人がサポート

 地方の中小企業がSDGsの施策や持続可能な経営を進めようと思っても、社内に専門知識のある人材がいるケースはほとんどない。こうした企業では意欲はあっても、具体的に何をやって良いのかわからず、立ち止まってしまうことが多い。古屋氏は「当行がやろうとしているのは、困っている中小企業への課題解決や企業価値向上のためのコンサルティングだ」と話す。

 山梨中銀の環境投融資のやり方は独特だ。一般的には営業店の法人担当だけが企業をサポートするが、同行の場合はコンサルティング営業室の担当者も同行し、企業の相談に応じる。コンサルティング営業室ではSDGs担当だけでも6名在籍しており、顧客のSDGsの取組み状況を聞き取ってチェックし、結果をフィードバック。フィードバックシートに基づき、顧客の目標設定など「SDGs宣言書」策定をサポートするという。一定の目標を設定できた場合は、貸出金利を優遇するSLLや「SDGs応援ローン」などで支援する。

地元企業の環境ブランディングや採用力強化を支援

 山梨中銀のSDGs戦略は同行の事業にも好影響を与えている。銀行融資を中心とした間接金融から企業が市場から資金を調達する直接金融へのシフトがじわじわ進む中、地域金融機関の合従連衡や淘汰は進んでいる。地方の中小企業は今も銀行からの借り入れが多いとはいえ、顧客企業との信頼関係をさらに深めることは地銀にとって必須項目だ。古屋氏は「環境融資やコンサルを通じて顧客企業の課題を整理し、その解決のために伴走することで接点が増え、信頼関係が強まっている」と強調する。

 環境問題への対応は地方の中小企業の採用力にも直結する。少子・高齢化や東京への一極集中を受けて、地方では人口減少や企業の人手不足などはさらに深刻になる見通し。「顧客企業の経営者から『就職活動中の学生たちは、環境問題への対応をしていない企業に見向きもしない』という話をよく聞くようになった」(古屋氏)という。

 SLLの第一号となった旭陽電気からは「CO2排出量の削減目標を明確にしたことが、持続可能な経営へのステップになった」「山梨中銀によるSLLの融資先に選ばれたことで知名度が高まり、ビジネスチャンスが拡大した」などと感謝された。山梨中銀は今後3年間でサステナブルファイナンスの投融資額を2500億円以上、2030年度に8000億円以上にする目標を掲げている。

「企業の心臓」から銀行の役割を拡大できるか

 山梨中銀が実施するSDGsの施策は顧客企業への融資やコンサルだけではない。例えば、太陽光発電システムを同行の明見支店、小笠原支店および昭和支店に設置したり、猿橋支店の駐車場には、太陽光と風力を利用したソーラー風力外灯を設けたりしている。営業用車両にはハイブリッド車や低燃費自動車、燃料電池自動車(FCV)などを導入、温暖化ガスの排出量削減に貢献しようと努める。

 銀行は企業や個人にお金という血液を送り込む「心臓」のような存在だと言われる。しかし、日銀の超金融緩和や金融とITを融合するフィンテックの発達などにより、その役割は刻々と変化しつつある。人口減少や過疎化に直面する地方でも、その変化は顕著だ。金融機関としての役割を拡大し、顧客企業との信頼関係を強化していけるのか。それは銀行が顧客の「心臓」だけでなく、ほかの機能も担えるかという問いに似ている。山梨中銀のSDGsを通じた挑戦は、その回答の1つになりうるかもしれない。

(加藤俊・株式会社SACCO社長、編集協力 P&Rコンサルティング)

【筆者プロフィール】

SACCO社長加藤俊氏
SACCO社長加藤俊氏

かとう しゅん

加藤俊

(株式会社SACCO社長)

企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki(https://coki.jp/)」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

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