教養・歴史鎌田浩毅の役に立つ地学

シリコンもシリコーンも元をたどればガラスと同じ/131

半導体の基盤となるシリコンウエハー。原材料自体は地球のどこにでも存在する Bloomberg
半導体の基盤となるシリコンウエハー。原材料自体は地球のどこにでも存在する Bloomberg

半導体シリコンの地学/下 

 半導体の主要な原料としての珪石(けいせき)は、主に二酸化ケイ素(SiO₂)からなり、元素ケイ素(シリコン、Si)が含まれている。二酸化ケイ素は古くから、ガラスの主成分として使われてきた。現在では二酸化ケイ素に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムなどを混ぜることにより、多様な性質を持つガラスを製作している。

 二酸化ケイ素をセ氏1000度以上の高温で溶融し、ゆっくり冷やすと結晶ができる。一方、急に冷やすと非晶質(いわゆる「アモルファス」)の状態で固まり、ガラスとなる。ガラスの内部ではさまざまな原子が不規則に並んでいる。原子が規則正しく並ぶと水晶や石英(せきえい)のような結晶になるが、不規則な構造のままに固まったものがガラスなのである。

 ガラスを巡っては興味深い性質がある。結晶をゆっくり加熱すると、ある温度で急に溶け出す。ところがガラスの場合は、少しずつ軟らかくなり、いつの間にか溶け出す。つまり、ガラスとは液体が低温で固化したものなのである。例えば、二酸化ケイ素を高温で融解してから冷やすと、「石英ガラス」と言われる製品になる。

 世の中には半導体としてのシリコンのほかに、「シリコーン」と呼ばれる二酸化ケイ素を原料とした合成樹脂がある。シリコーン(silicone)とはシリコン(silicon)のつづりに「e」が付くだけであるが、高分子状態となったケイ素の有機化合物であり、シリコンとは完全に異なる物質である。ケイ素樹脂やシリコンオイルはシリコーンを用いたもので、成分や構造の違いによりゴムや油の状態になる。

 シリコーンは成分としてケイ素を使っているので、紫外線や熱に強く、劣化に強い特性がある。なお、弾力性のある樹脂製品はしばしば「シリコン樹脂」「シリコンゴム」と呼ばれるが、正しくは「シリコーン樹脂」「シリコーンゴム」と言うべきだろう。ちなみに、シリコーンは正しい化学用語で、文部科学省監修の『学術用語集 化学編』でも珪素はシリコン、高分子樹脂はシリコーンと訳している。

高い中国のシェア

 さて、シリコーン(シリコーン樹脂)や半導体シリコンも、最初の材料となるのは珪石である。地球上のどこにでもある、ありふれた材料ではあるが、半導体シリコンの基となる高純度の金属シリコンを生産するには、大きな電力が必要となる。このため、金属シリコンは電気代の安い中国やノルウェー、ブラジルなどで大量に生産されている。世界の金属シリコン生産量の約7割は中国産である。

 半導体の基板となるシリコンウエハーでは、日本メーカー2社で世界シェア6割を占めるが、その元をたどれば中国に供給を依存する構造である。半導体は近年、電気自動車(EV)などの需要増もあり、ハイテク産業の要として欠かせない製品である。過去の連載で紹介したレアアースやレアメタルと同様に、グローバルな調達網の不断の見直しが求められている。


 ■人物略歴

京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏
京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・レジリエンス実践ユニット特任教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2023年1月24日号掲載

半導体シリコンの地学/下 元をたどればガラスと同じ

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