教養・歴史書評

英王子の暴露本に好意的な米国 冷泉彰彦

 英国のチャールズ国王の次男で、ウィリアム皇太子の弟であり、王位継承順位5位であるヘンリー(ハリー)王子の著作『スペア』が発刊された。米国では1月10日にランダムハウスから発売されると、ただちにアマゾンの「最も売れた本」ランキングで1位となり、半月で2万1000を超えるレビューが付くなど大きな反響となっている。

 英国本国では、刊行自体が社会的に批判され、書籍としても「暴露本」だとして酷評が相次いでいる本書だが、米国での受け止め方は比較的好意的だ。星の数五つを最高評価とするアマゾンのレビューでも、星の数の平均は4.5程度と評価としては高い。

 その理由としては、何よりもアフリカ系のメーガン妃に対する、英国王室の態度が人種差別ではないかという王子の「告発」に対して、米国では支持する声が大きいということがある。本国では、その「告発」が行き過ぎだとして批判が多いが、米国の世論としては過半数が夫妻を支持しているといっていいだろう。

 もう一つは、王子の母親である故ダイアナ妃の死や父親チャールズ国王に対する、王子自身の複雑な思いについてだ。本国では、王室批判を含めて王子が自身の本音を赤裸々に語ることには嫌悪の声がある。だが、米国では過酷な運命を背負い、自由を制限されて育った王子の立場に対しては、関心も高いし、基本的に好意的といえる。

 ただし、辛口で有名な米紙『ニューヨーク・タイムズ』の書評では、「英国のメディアや世論から追い回されることを拒んでいる王子夫妻だが、このような暴露本を出すことは、自分たちへの関心を加速させるのだから、行動として矛盾している」などと厳しい指摘をしている。

 とはいえ、一方ではその書評においても、王子自身が精神的に追い詰められてきた軌跡が率直につづられていることについては評価をしている。

 王子夫妻は、今後も本国を離れて米国で生活を続ける模様だ。米国の世論が人種の問題や生い立ちの苦労などを理解して、夫妻の理解者として温かく見守り、振る舞うという傾向は、おそらく今後も続くだろうと予想される。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年2月14日号掲載

海外出版事情 アメリカ 英王子の暴露本に好意的評価=冷泉彰彦

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