教養・歴史書評

未来を先取りし、創造するための方法論を、プログラムで提示 評者・田代秀敏

『30年後のビジネスを「妄想・構想・実装」する 未来創造戦略ワークブック』

著者 河瀬誠(エムケー・アンド・アソシエイツ代表)

日本実業出版社 2420円

 テクノロジーの進歩と人口の減少とが並行して劇的に顕現する中、現状を超える大きなビジネスを創造するニーズは飛躍的に高まっている。

 携帯電話は2007年に国内だけで5559.3万台が出荷された巨大産業だったが、08年のiPhone日本発売から5年後の13年にパナソニックもNECも事業から撤退し、産業としては実質的に消滅した。

 アップルがiPhoneの開発を始めたのは04年。iPadを構想したのは1988年。それらを日常的に駆使している私たちは、19年前や35年前のSF(空想科学小説)の中を生きていることになる。

「新しいSFを創り出す会社、また新しいSFを活用する会社が登場し、大きな産業を作っていく。その一方で、今ある仕事が消え、今栄えている産業も消滅していく」と経営コンサルタントの著者は指摘する。

 未来学者ピーター・ドラッカーも「未来は知りえない。しかし自ら創り出すことはできる。成功した人や企業はすべて、自らの未来を自らの手で創り出してきた」と言っている。

 しかし企業でほとんどの人は、新入社員の時から計画主義・数値管理の本業を担当し、ビジョン思考・仮説思考の未来創造の経験がないまま、役員や経営者に昇進していく。

 未来創造の経験に乏しい経営者や役員が、失敗回避をドグマとし、3~5年期限の中期経営計画をカイゼンしながら繰り返していると、企業は変化に取り残され衰退していく。

 実際、知識社会の到来は半世紀前から予測されていたのに、また実際に到来してしまってからも、日本企業は映画「三丁目の夕日」に象徴される工業社会時代での成功を繰り返そうとして消耗していった。

 だからこそ、「未来を先取りして、未来を創り出す方法」を示し、「自分の会社や所属する組織の未来を描き、関係者を巻き込んで未来を創り出すまでをガイドする」本書は、日本の経営者、役員、従業員そして起業家にとって熟読に値する。

「複数の大企業でのプロジェクト経験と検証を経た実践的な内容である」と自負する通り、全12回の「未来創造プログラム」の要点が紙上で再現され、具体的な事例を通じて未来創造の方法がリアルに示される。

「未来創造こそ、経営者が為すべき仕事である」と著者は喝破し、未来創造を推進する組織は経営者の直下に置き、単年度黒字を求めず、失敗することを許し、失敗から学ぶことを勧め、稟議(りんぎ)や根回し無しの迅速な意思決定を許すなど、未来創造のための組織や人事のあり方も示す。

(田代秀敏・infinityチーフエコノミスト)


 かわせ・まこと 東京大学工学部卒。ボストン大学経営大学院理学修士および経営学修士(MBA)修了。未来創造、新規事業開発に関する現職のほか、立命館大学客員教授も務める。他の著訳書に『新事業開発スタートブック』など15冊がある。


週刊エコノミスト2023年2月28日号掲載

書評 『30年後のビジネスを「妄想・構想・実装」する 未来創造戦略ワークブック』 評者・田代秀敏

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