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教養・歴史 ロングインタビュー情熱人

精神の回復途上――沼田和也牧師

「『いのり』と『いのち』は1字違うだけ。キーボードを打ち間違えて気付き、感じ入りました」(撮影=武市公孝)
「『いのり』と『いのち』は1字違うだけ。キーボードを打ち間違えて気付き、感じ入りました」(撮影=武市公孝)

牧師 沼田和也/68

 かつては精神科病院の閉鎖病棟に入るほどの苦境に陥りながら、日々、街の小さな教会でさまざまな悩みに耳を傾ける沼田和也牧師。どこにも行くあてのない人々が安心して訪ねることのできる場所で、沼田さんは待っている。(聞き手=北條一浩・編集部)

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── 聖人君子と思われがちな牧師ですが、昨年11月に刊行した『街の牧師 祈りといのち』(晶文社)では、牧師としての沼田さんの苦悩がさまざまなエピソードとともに語られていて、牧師の内面が見えると同時に一人の人間なんだと改めて感じさせられました。

沼田 いずれも実際の経験に即していますが、いまだにそれぞれ遭遇した人々とのやりとりはあれでよかったのか、あの人はその後どうなったのかと思うことばかりです。また、個人情報保護の観点も含め、事実関係を微妙に変えている箇所もあり、その意味で自分ではフィクションとノンフィクションの間にある本ではないかと思っています。

── 今作だけでなく前作『牧師、閉鎖病棟に入る。』(実業之日本社、2021年)でも明かしていましたが、15年には精神科の閉鎖病棟に2カ月間入院していたのですね。

沼田 赴任した教会に付属の幼稚園があり、その理事長と園長を兼任していたのですが、牧師より幼稚園の仕事のほうがずっと多い状況でした。当時はその幼稚園が自治体から潤沢な援助がもらえる「幼保連携型認定こども園」へ変更しようとしていた時でしたが、膨大な書類の提出が必要で疲労と緊張の日々でした。そしてある日、何が理由かはまったく思い出せないのですが、私は副園長に対してキレてしまい、大声で罵倒したあげく、牧師館に引きこもって、「死にたいわ、もうあかん」と漏らしたんです。

── 「閉鎖病棟」に入ったということは、それほど事態が切迫していたのですか。

沼田 キレた事件の後に、妻が心配して病院で診てもらおうということになったのですが、まず病院で試みたのは「診断的治療」と呼ばれるものでした。これは入院しながらいくつかの薬を試し、最も症状が改善した処方からさかのぼって診断名を確定するという方法でした。検査の結果、対人関係が苦手で強いこだわりのある、いわゆる「自閉スペクトラム症」の可能性が高いとされましたが、医師によれば「境界性パーソナリティー障害」(思考に偏りが多く、時に衝動的自傷なども起こす)あるいは「妄想性障害」の疑いもあると。

 私は特に暴れるようなことはなかったのですが、自死の危険はあると見なされ、閉鎖病棟への入院を急いだほうがいいと医師から勧められました。閉鎖病棟と聞いて最初は驚き、逡巡(しゅんじゅん)しましたが、この機会にきちんと癒やしたほうがいいと思い、入院を決意しました。

「私がキレるのは幼少期からの癇癪の蓄積。自分一人で反省しても分からないことで、医師との対話に恵まれました」

── 著作では、沼田さんの言葉に耳を傾けながら、病の根源を明らかにしようとする医師の姿に繰り返し言及しています。

沼田 私の主治医こそは、私を変えてくれた人です。私は、副園長の私に対する不当な扱いをずっと訴えていましたが、主治医はそれを疑問視し、激高の理由は本当にそれなのかと対話を続けました。やがて分かってきたのは、私がキレるのは幼少期からの癇癪(かんしゃく)の蓄積によるものだということ。つまり、何か気に入らないことがある時はキレて、それで周囲の人をあきれさせ、言うことを聞いてもらってきた。その延長にある行為だったということなんですね。

 こういうことは自分一人で反省しても分からないことで、対話に恵まれたこと、対話の重要性は今の仕事に生きていると思います。

「ころすぞぉおまえッ」

 沼田さんが入院する前のこと。妻のためにデパ地下でちょっと奮発して購入した弁当を手に提げていた。駅の改札口で中年女性とすれ違いざま、少し接触した女性に向けて沼田さんは叫んでいた。「ころすぞぉおまえッ」。ささいなことで癇癪が爆発する。それも、反射的に相手を選びながら。そして、お見合いで結婚した妻もかつて、そんな沼田さんとの生活の中で心身に不調をきたし、精神科病院に入院していた。退院後の回復途上にある自身を見つめ直した『街の牧師 祈りといのち』では、「私は副園長から赦(ゆる)され、妻からも赦されて、今こうして生きている…

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