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国際・政治 長期で選ぶ米国株

底を打ったGAFAM+テスラ AIに自動運転で成長は続く 岡元兵八郎

 米国株は長期的に成長するマーケットである(図)。米国は世界最大の移民受け入れ国で、あらゆる経済活動の基礎となる人口が増えている。グローバル経済拡大の恩恵も受け、S&P500種株価指数の採用銘柄の1株当たり利益(EPS)は、2000年のITバブルの崩壊や08年のリーマン・ショックを経ても、右肩上がりだ。企業の研究開発(R&D)投資は、日米のトップ10企業で比較すると5倍の差があり、さまざまな分野でイノベーション(技術革新)が起きている。

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 しかし、どんなに良いマーケットであっても、株価の調整は必ず起こる。だから、今の調整局面は、長期に投資する個人投資家にとっては、絶好の買い場である。

 今年の米国株相場だが、前半は少し軟調だが、後半は反発し、S&P500種で4300ポイントまで上昇すると見ている。その理由は、企業業績が年後半に回復するためだ。S&P500構成銘柄の業績は今年の第3四半期(7~9月期)から前年比でプラスに転じると予想されている。

 インフレの落ち着きとともに、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げも終了すると見られ、金利と逆相関のバリュエーション(株価指標)も回復する。S&P500構成銘柄の予想EPSは23年は223ドル、24年は244ドルで、それに基づく株価収益率(PER)は23年は19.2倍、24年は17.6倍。1991年からのS&P500の平均PER19.6倍に比べるとまだ割安だ。そのため、昨年、バリュー(割安)株に比べ大きく売られたグロース(成長株)株が回復してくるだろう。

反発へたまるマグマ

 投資家のセンチメントについて、一つ、重要なデータがある。全米個人投資家協会が90年から集計している個人の「ブル(強気)」から「ベア(弱気)」を引いたブルベア指数の推移だ。この平均は6.7ポイントだが、昨年の秋はマイナス40ポイントレベルまで下がった。この水準の弱気は、歴史的に見ても、90年初頭や08年のリーマン・ショックなど2回しかない。リーマン・ショックの際は差し引きネットのベアが34週続いたが、今回は42週で、歴史的に初めてだ。ここまで弱気が継続したのが昨年のマーケットの特徴である。1月の株価の反発局面でも垣間見られたが、相場反発へのマグマはたまっている。

 そうした中、今年の注目のエリアは、「GAFAM+TN」(表、拡大はこちら)である。株式時価総額で米国企業の上位10社のうち6社が名を連ねるハイテク企業群、アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル持ち株会社)、アマゾン、テスラ、エヌビディアに同11位メタ(フェイスブック運営)を加えた7社の頭文字を表したものだ。GAFAM+TNは米国経済のけん引役であり、今後も企業価値の拡大が可能で、それ故に長期投資に適している。読み解くキーワードは「モート」。日本語で「城の堀」というニュアンスだ。各社がこれまで築いてきた事業基盤は絶大であり、参入障壁は極めて高い。

 株式市場で最高の評価を受けてきたGAFAM+TNだが、22年は逆風にさらされた。各社の株価はいずれも昨年3月末から4月初頭にかけて過去1年間の高値をつけて後に下落に転じた。ただ、昨年秋から年初にかけて株価は底を打った。

 最大の「風圧」は金利上昇だ。21年夏ごろから米国で本格化したインフレの高まりに伴い、22年3月に0~0.25%だった政策金利は4.5~4.75%に上昇。一般に金利が上昇すると将来の成長期待が織り込まれるハイテク株は下落しやすい。さらには、金利が上がれば家計や企業活動にもマイナスの影響が生じる。

 メタとアルファベットは、インターネット広告収入への依存度が高く、22年10~12月期の純利益はメタが前年同期比54%、アルファベットは同34%の減益。アマゾンは本業のもうけの営業利益が同21%減少。企業がクラウド投資に慎重になっているほか、ネット通販で割安な商品の購入が増えており、収益の伸びを抑えている。アップルはiPhoneの売上高が同8%減少。2月2日に開いた決算説明会でティム・クック最高経営責任者(CEO)は景気減速の影響を受けているとの認識を示した。

15億人の「難攻不落城」

 成功体験を継続してきたGAFAMといえども、市場経済の中でビジネスを展開している以上、景気減速や後退の影響は受ける。だが、これらの銘柄に長期で投資するならば、目先の株価の下げにとらわれてはいけない。成長を継続する意思とその熱量に注目すべきだ。株価下落は成長銘柄に割安で投資できるチャンスである。

15億人のユーザーがいるiPhone Bloomberg
15億人のユーザーがいるiPhone Bloomberg

 アップルは世界で15億人のiPhoneのユーザーを抱え、さらに音楽や動画の配信、顧客データを預かるクラウドなどのサービスを展開している。スマートフォンだけでなく、今年の春にはAR・VR(拡張現実・仮想現実)用ヘッドセットの発表もうわさされている。次の成長ストーリーは、25年との観測がある電気自動車(EV)の投入である。アップルは「信者」と呼ばれる熱狂的なファンをEVでも引きつけることができれば、時価総額をさらに引き上げるチャンスになる。

 自動車産業では電動化が進むが、次の展開は自動運転化である。テスラに次いで実用化を進めているのがアルファベットだ。同社は既に米アリゾナ州フェニックスの一部地域で自動運転タクシーを走行させている。

 メタは、広告収入依存からの脱却を狙い、21年10月にフェイスブックから社名を変更し、メタバース(インターネット上の仮想空間)に注力する方針を打ち出した。同社は数年間にわたり邦貨で1兆円以上を投じて研究開発を続けている。SNSや写真・動画共有の事業化に成功を重ねた実績を踏まえると、何らかの成果を上げると期待している。

 アマゾンは日本の25倍ある広大な米国全土で商品翌日配送のサービスを実現しようとしている。最もコストがかかる各家庭までの「ラストワンマイル(最後の1マイル)」の配送を、ドローンや自動運転車を活用しながら米国で実施済みだ。物流の巨大なインフラを活用して、最近では他社によるネット通販にもアマゾンは物流サービスを提供。

 マイクロソフトは、出資先の米新興企業オープンAIが開発した自動応答システム「チャットGPT」の技術を、自社の検索エンジン「Bing(ビング)」とブラウザーの「エッジ」に搭載したと2月に発表。手堅いビジネスを続けているマイクロソフトだが、今後開花しそうな技術に対する「目利き」という点でも評価できる。

EV・GPU需要は爆発へ

 テスラは今年1月に値下げ(米国で最大20%、日本と中国で約10%)に踏み切った。同社は22年7~9月期決算で、車1台当たりの純利益率がトヨタ自動車の8倍で、値下げの原資は潤沢。テスラにとってEVとは、スマートフォンを基盤としたサブスクリプション(=サブスク、定額課金)モデルと同様のビジネスが展開できる対象だ。多く売れるほどサブスクで課金できる「端末」が増えるので、収益がさらに拡大する。

 これはフォード社が115年前に「T型フォード」を発売した数年後に約4割の値下げに踏み切り、自動車普及の道筋を開いた戦略の再来にほかならない。T型フォード開発時に約250社あった自動車メーカーは淘汰(とうた)され、最終的にフォード・モーター、ゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラーの大手3社が市場シェアの大半を握り、最近までその状況が続いた。ガソリン車で起きた同様の歴史が今後、起きてもおかしくない。

 テスラの場合、イーロン・マスクCEOの奔放な言動がある種のリスクではある。ただ、中国事業の責任者でテスラの実質ナンバーツーとされる朱暁彤(トム・チュー)氏が同社を仕切っている体制に移行しつつある点も注目したほうがよいだろう。

 エヌビディアが手掛けるGPU(画像処理回路)は、AI時代に必須のデバイスだ。自動運転やチャットGPTなどの用途で需要爆発はむしろこれからだ。

 これら7銘柄の選択は、株価のボラティリティー(振れ幅)の大きさに応じたリスクをどの程度許容するのか次第だろう。リスクの大きい順に、テスラ、メタ、エヌビディア、アマゾン、アルファベット、アップル、マイクロソフトといったところか。将来の姿を想像して投資するとよい。

(岡元兵八郎、マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント)


週刊エコノミスト2023年3月21日号掲載

長期で選ぶ米国株 米象徴のGAFAM+テスラ AI、自動運転と成長は続く=岡元兵八郎

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