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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

チーム益田で挑む――藤原智行さん

スピーディキックと。「僕らのやり方が間違っていなかったと証明できてうれしかった」(撮影=武市公孝)
スピーディキックと。「僕らのやり方が間違っていなかったと証明できてうれしかった」(撮影=武市公孝)

浦和競馬場調教師 藤原智行/71

 かつて島根県益田市に“日本一小さい”競馬場があった。浦和競馬場の調教師、藤原智行さんは、その益田競馬場の出身だ。管理するスピーディキックは地方競馬の有力牝馬だが、活躍の裏には藤原さんたちの益田の絆がある。(聞き手=村田晋一郎・編集部)

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── 益田競馬場では祖父と父が代々調教師をされていたということですが、将来は厩舎(きゅうしゃ)を継ごうと思っていたのでしょうか。

藤原 いとこに海外でも活躍した道川満彦騎手がいて、僕自身はもともと騎手への憧れが強くて、小学校の卒業文集にも「日本一の騎手になる」と書いていました。しかし騎手学校に入ってから減量で病気になり、騎手は諦めざるをえませんでした。そして、厩務員として父の厩舎を手伝うようになりました。

「技術がないから益田競馬場が潰れたのではない」

── その益田競馬場は2002年8月に廃止になりました。

藤原 当時はいろいろな地方競馬場が廃止になっていましたが、当時の益田市長は益田競馬場をなんとか存続させようとしていましたし、我々も署名活動などをしていて、益田競馬場が廃止になるとは思っていませんでした。しかし市長が代わった途端にやめる方向になりました。今のようにインターネットで全国の競馬場の馬券が買えれば、話が違ったのでしょうが、当時はネット投票が普及していませんでした。

藤原厩舎を取り返す

── 益田競馬場が廃止になった時に、行き先は決まっていたのですか。

藤原 僕はJRA(日本中央競馬会)に行きたいと思っていて、厩務員試験の勉強をしていました。しかし出願の際に年齢制限で駄目だと分かりました。そこで急いで行き先を探して、浦和競馬場を紹介してもらいました。

── 浦和に来た時は、将来的に調教師になろうと思っていたのですか。

藤原 僕にとって、益田競馬場の廃止は、父の調教師免許、代々の藤原家の調教師免許、厩舎が奪われたというイメージで、それを取り返したいと思っていました。そして取り返すなら、絶対に潰れない競馬場に行こうと。地方競馬にしか行けないなら、南関東(大井、川崎、船橋、浦和)に行こうと思いました。

── 浦和では所属厩舎を何回か変わっています。

藤原 どこの厩舎へ行く時も調教師の試験を受けさせてほしいと言い続けていました。調教師試験を受けるには、調教師の推薦が必要なのですが、「書類を出し忘れた」とか言われて、毎年調教師試験を受けさせてもらえませんでした。10年以上たって、試験も受けさせてもらえないなら、もう調教師にはなれないなと思っていた頃、最後に所属した厩舎の小嶋一郎先生が、僕が調教師になりたいと思っていることを聞きつけて「うちに来い」と言ってくれて、猛烈に後押ししてくれました。

 それで初めて調教師試験を受けましたが、このチャンスを逃したら、調教師にはなれないと思って猛勉強しました。厩舎の仕事を終えてから、自室に籠もって睡眠時間も削って勉強し、一度の受験で合格しました。

── 厩舎を開業して軌道に乗るまでに苦労されたことは?

藤原 馬を集めることがゼロからのスタートでした。とにかく人脈がなかったので、開業してから数年間は、北海道で競走馬のセリが開催される時期に牧場に手伝いに行き、朝早くからセリに出す馬の手入れをしたりして、セリの会場で人脈を広げていきました。また、手土産を持って、行ったことのない牧場にあいさつに行っていました。

── 厩舎運営で心掛けていることは?

藤原 馬は人が作るもので、人が駄目なら馬は走らないと思っています。ですから、厩舎の雰囲気作りが馬作りだと思ってます。実は開業して3~4年目に厩務員を全員辞めさせたことがあります。若いスタッフが多く、しっかり給料を払っていたのですが、良い給料をもらったことに満足して、仕事をしなくなった。それで全員辞めさせました。

 そこで頼ったのがヒデ(末田秀行厩務員)でした。ヒデは父の厩舎の所属騎手だったので、真面目な人柄は知っていました。益田競馬場廃止の後、金沢競馬場で騎手を続けましたが、その後、騎手を引退し、益田で別の仕事をしていて家まで買っていました。でも、信頼できる人間はヒデしかいないと思って、厩舎に来てくれるように頼みました。以降は、安易に人を採用することはやめて、信頼できる人間を集めたので、…

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