教養・歴史ロングインタビュー情熱人

5分番組「世界の車窓から」35周年――岡部憲治さん

「5分間の番組で、実際に映像が映っているのは2分15秒。でも、意外に長いんですよ」 撮影=中村琢磨
「5分間の番組で、実際に映像が映っているのは2分15秒。でも、意外に長いんですよ」 撮影=中村琢磨

テレコムスタッフ代表取締役兼プロデューサー 岡部憲治/70

 誰もが知る5分間のミニ番組「世界の車窓から」。1987年の放送開始からプロデューサーを務め続けるのが岡部憲治さんだ。2本のレールの上を舞台として、世界各地の文化や歴史、そして人々の暮らしを伝え続けている。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)

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── テレビ朝日系で放送中の紀行番組「世界の車窓から」は、昨年夏で35周年を迎えました。

岡部 1987年の6月1日に鉄道の発祥地、イギリスのロンドンから番組がスタートしました。今年2月28日の放送回で1万800回になります。

── 「世界の車窓から」はわずか5分の番組ですが、76年放送開始で現在1万1000回を超えるテレビ朝日系のトーク番組「徹子の部屋」に次ぐ長寿番組です。なぜここまで長く続けることができたのですか。

岡部 うーん、番組を支持してくれるスポンサーが1社提供(富士通)でずっと続いているし、関係者の協力が大きいですね。それに、視聴者のみなさんが「いい番組だ」と言ってくださる。そこですよね。

── 「世界の車窓から」を見ていると、その国の文化や歴史が凝縮されていて、いつか自分も行ってみたいという旅情をかき立てられます。

岡部 車窓の映像では毎年、自然に寄り添った風景を撮りたいと思っています。例えば、オランダだったらチューリップの季節、カナダだったら紅葉の季節に行こうとか。スイスだったら夏もいいし冬もいい。また、名所旧跡は必ず撮るようにしています。

── 同じ国でも何回か撮影しているようですね。

岡部 そうなんです。取材した国は現時点で106カ国で、そのうち一番多く行っているのがフランスです。17回ぐらいになるでしょう。イタリアは14回、イギリスは11回と、同じ国を何回も行っています。だけど、同じコースでない場合ももちろんありますし、10年もたてば風景も違っているので、季節を変えたりして同じコースをやることもあります。

 現在は毎週月曜、火曜の午後11時10〜15分に放送されている「世界の車窓から」。風景や列車の映像に加え、旅先で出会う人々の笑顔なども、視聴者の印象に深く刻まれる。BGMに流れるのは、ジャズやクラシック、民族音楽など多彩なジャンルの音楽。そして、溝口肇さん作曲のテーマ曲「世界の車窓から」と、俳優の石丸謙二郎さんによるナレーションは、87年の放送開始から変わらない。

「“偶然の旅人”としていい番組を作り続ける」

── 「世界の車窓から」はどんな制作方針なのですか。出たとこ勝負のぶっつけ本番?

岡部 この番組は僕の方針でやっています。人生の偶然性というか出会いの偶然性というか、僕は「偶然の旅人」と言っているんですが、それをテーマとして撮っている番組なので、ロケハンはしません。もともと列車の旅は毎回同じ人が乗ってくるわけではないし、同じ気候でもないですから、ロケハンをしても意味がない。ただ、事前に地図などを見て、いい列車の映像が撮れるポイントなどは綿密に計算しています。

── 何人ぐらいのスタッフで制作しているんでしょうか。

岡部 ローテーションを組んで作っているので決まっていません。スタッフはそのつど、うちの社員がベテランや若手を含めてだいたい1カ月ぐらいロケをすると、放送回3カ月分の映像を撮ってきます。取材する国は現在はスタッフが決めますが、もともとは僕が決めていました。全体のバランスや世界情勢、シーズンも考えながら、欧州へ行ったら次はアジアにして、欧州は続かないようにしようとか。

列車は「世界共通の言語」

── 「世界の車窓から」は岡部さんがプロデューサーとして企画・立案して始まったと聞きます。番組を始めた経緯は?

岡部 もともとテレビ朝日の報道番組「ニュースステーション」が始まる前の枠、月曜から金曜までスポンサーは富士通1社提供の枠があり、毎日でも見られる息長くできる番組を、と企画しました。鉄道に乗れば文化も政治も経済も、その国のことがだいたい分かるのではないかと考え、鉄道の旅にしようと決めたんです。鉄道の番組は誰でも理解できる。列車というのは世界共通の言語ですよね。

 一時期は土曜、日曜も含めて1週間毎日やっていたこともありました。その後、2016年5月に1万回を達成するまでは月曜〜金曜に放送していた…

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