党の解体後、中国は、台湾はどうなるのかを検証した一冊 菱田雅晴
1972年の日中国交正常化直後、日本では「竹のカーテン」(アジアにおける冷戦時代の東西陣営の緊張)の向こうの中国をもっと知ろうとの動きがふつふつと起こった。パンダブームに象徴される中国熱で、書店には中国事情を伝える紹介本が平積みされていた。
その後、半世紀の星霜(せいそう)を経て、書店自体も数少なくはなったが、今そこに並ぶのは、台湾有事、中国の脅威を訴える「嫌中本」の類いである。
そうした中、台湾で出版された范疇著『後中共的中國』(今周刊出版社、2022年)は異彩を放っている。書名は「中国共産党後の中国」という意だが、中国共産党は解体するのか? その契機とは? 解体後の中国はどうなるのか……。「いつ」ではなく、「いかに」を予測したという本書は、中国の集権的体制が解体した後の「状況分析報告」だとした上で台湾の「準戦」を訴える。
著者の范疇は台湾大学で哲学を学んだ後、米コロンビア大学で哲学修士を経て、デジタル教育分野を中心に米国、シンガポール、台湾、中国などで創業した企業家でもある。
中国共産党が解体した後の中国を誰が統治するのか、誰がその混乱を収拾するのか、未来の中国はまったく異なるものに生まれ変わるのか、それとも生けるしかばねとなるのか。本書は多くの可能性をミクロケースまで列挙している。
范疇は「ポスト共産党」の状況として、さまざまな行政単位が財政赤字となり、中央財政からの補填(ほてん)も得られず、その状態が2年以上続くことがその起点と定義する。近年多くの公務員、とりわけ公安、軍隊、武装警察などで給料未払いが顕在化しつつあり、その定義に近づきつつあるともいえる。
その上で、作者は、台湾は戦争を起こさない「止戦」を重点とすべきだが、敵に台湾攻撃を思いとどまらせるまでに準備する「備戦」の重要性を説く。台湾は絶対に占領されることはない、征服され奴隷となることはないという自らのボトムラインを明確にすることが重要で、これが中国に対する最も有効な「認知戦」(敵の認知に働きかけてコントロールすること)だという。
単なる中国崩壊待望論を超えた本書は台湾社会の注目を集めている。
(菱田雅晴・法政大学名誉教授)
この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2023年3月28日号掲載
書評 海外出版事情 台湾 共産党後の中国を予測して注目=菱田雅晴