「ホテル×本」の幸せな出会い――御子柴雅慶さん
dot共同代表取締役 御子柴雅慶
観光や仕事の出張で泊まるばかりがホテルではない。これまでにない発想で、新たなホテルの可能性を追求している。(聞き手=北條一浩・編集部)
「世界一の本の街」といわれる東京都千代田区の神田神保町で、読みふけるために泊まる目的型ホテル「BOOK HOTEL 神保町」を運営しています。2021年12月にオープンしました。12階建てのうち、11階まで各フロアの通路の壁に本棚を並べ、宿泊する人がその日の気分で本を選べるようにしています。3階は「今日は泣きたい気分」、9階が「徹夜でミステリー」などテーマ別に書棚を設置し、約3000冊の本をそろえています。
そして最上階の12階は「MANGA ART ROOM,JIMBOCHO」という客室で占めています。ここは漫画に特化した部屋で、さまざまな本を階段状に面出しし、好きなだけベッドで読みまくることができます。部屋の奥にはサウナもあり、1室で最大5人まで宿泊できます。
このほか、それぞれの人に合った本を見つける「ブックカウンセリング」、また、作家を招いたイベントなどもホテルで開催していて、今年3月18日には日本推理作家協会U45クラブとコラボし、京極夏彦さんはじめ11人もの小説家が集まるイベントを開きました。
私は旅行が好きで、2014~16年に世界50都市を巡りました。その過程で、立地や利便性より感受性に訴える強烈な宿泊体験が大事だと思い、自分でそうした事業を手がけたいと考えるようになりました。加えて、世界の人々が出会う際も英語ができないと、ある程度以上のコミュニケーションが難しいと感じ、英語に代わる別のコミュニケーションの手段がないかと考えるようにもなりました。
漫画は世界共通の「言語」
そこで気づいたのが漫画です。日本について世界の人が何を知っているかと聞いたら、出てくるのは「ドラえもん」「ワンピース」「スラムダンク」などの漫画のタイトル。そこで、誰も試みたことがない新たなエンタメとして、漫画とホテルを組み合わせて提案するのが、これからの私の仕事だと思いました。
19年2月に東京都千代田区神田錦町でドミトリー(相部屋)形式の宿泊施設「MANGA ART HOTEL,TOKYO」をオープンしました。日本語と英語の漫画が5000冊読み放題で、海外の漫画好きに大ヒットして、1年間で69カ国から人々が訪れました。米紙『ニューヨーク・タイムズ』など700ものメディアにも取り上げてもらいました。
ところが、そこに襲ったのが新型コロナウイルス禍です。売り上げは95%落ちました。そこで、アルバイトの人たちに理解してもらって人件費を削ったほか、部屋を1日単位ではなく時間単位での「時間貸し」に挑戦したりしました。こうして苦境をしのぐうちに、出版大手の小学館と資本業務提携できることになり、21年12月から協業を開始しました。「BOOK HOTEL 神保町」の建物は小学館が所有しています。
本好き同士の婚活支援事業「ブック婚」も手掛けていて、すでにこのホテルで出会って結婚した人もいます。今後は神保町という本の街を歩いてもらうこととホテルの両方を楽しんでもらえる企画を展開していきたいと考えています。
企業概要
事業内容:コンセプトホテルの企画・運営
本社所在地:東京都千代田区
設立:2016年
資本金:4053万円(資本準備金含む)
従業員数:12人
週刊エコノミスト2023年4月11・18日合併号掲載
御子柴雅慶 dot共同代表取締役 「ホテル×本」の幸せな出会い